手が臭い。
母の好きな花を見つけた時、
毎日、かき混ぜている
形見になっちゃったぬか床。
結婚と同時にもらった。
ぬか漬けをする奥さんに
ならなきゃ
母に認めてもらえない
そんな気もしてた。
でも、
かき混ぜるのをサボって
ダメにして…
またもらって、
またカビはやしてダメにして…
また挑戦して、またダメにして…
を、繰り返すこと30年。
もう、もらえない。
母が入院した時、返すつもりで
ぬかだけ預かった。
でも、まもなく
壺ごともらうしかなくなった。
以来、
日課になった
ぬか床ギュッギュ。
だから、朝はちょっと
手が臭う。
それは母の匂い。
母がしていた指輪ももらったから
ぬか床から手を出す瞬間、
母がふっと見える。
この頃、
ほんとにふとした拍子に
涙が溢れそうになる。
空を見上げた時、
母の好きな花を見つけた時、
母の口癖が自分の口から溢れた時、
茄子のぬか漬けの色がもひとつな時、
母の声が聞こえるような、
姿が見えたような気がして
次の瞬間
母がもういない現実を
突きつけられる。
この間読んだ
小林麻耶さんの
『しなくていいがまん』に
書いてあった
「なんでもない、
むしろ和やかなシーンで、
あふれてくる悲しみ。…」
その通り。
自分でも予想しない
タイミングで、
急に込み上げてくる。
車とお風呂は
そんな時の強い味方。
あ、トイレも。
やっぱり臭い…か。



