でも、佐藤さんが最初に言った言葉は、わたしの予想とはまったく違っていたんです。

「ななさん、怖かったね」

その一言でした。


わたしは思わず目を閉じます。

責められると思っていた。

怒られると思っていた。

なのに、最初に心配してくれたのは、わたしの気持ちでした。


「ごめんなさい⋯」

また謝ると、佐藤さんは少し笑いました。

「何で謝るの?

悪いのは職場まで来た人でしょ

ななさんじゃないよ」

その言葉を聞いた瞬間、胸につかえていたものが一気にほどけていきました。


「でも⋯わたし、返信しちゃったし⋯

電話にも出ちゃった」

そのことだけは、どうしても自分を責めてしまいます。


すると佐藤さんは少しだけ考えてから、静かに言いました。

「うんその時は迷ってたんだよね、でも最後は、自分で会わないって決めた

そして今日も、その出来事をちゃんと俺に話してくれた

俺は、そのことの方が大きいと思う」

その言葉を聞いて、涙がまたこぼれました。


わたしは一人じゃなかった。

全部話しても受け止めてくれる人が、ちゃんと隣にいてくれたんです。


その時でした。

佐藤さんが少し照れくさそうに笑って言いました。「だからさ、これからは、一人で抱え込まないで俺にも半分、背負わせてよ」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなりました。

「⋯ありがとう」
やっと、それだけ言うのが精一杯でした。
「帰ったら、ゆっくり休んでね」
「今日はいっぱい頑張ったでしょ」
その優しい声を聞いていると、張りつめていた心が少しずつほどけていくのが分かりました。

電話を切ったあと、わたしはシャッターが降りた店内で小さく深呼吸をします。

今日一日、本当に色んなことがありました。

でも
一つだけ、はっきり分かったことがあります。
苦しい時に、わたしが一番話したかった相手は、裕太ではなく、佐藤さんだったということ。

そう思えた自分に、少しだけ安心したんです。


次回へ続きます。