目が覚めると、頭痛が治まっていました。


ふと、自分の左手をみると、ユアンさんの右手が乗っています。


彼の長い指の下に、自分の手がすっぽりと収まっており、温かいです。


それが嬉しくて、ついにんまり笑ってしまいます。


(さすが、ヒーリングスポット。最初からここに来ていればよかったな。)


ふっと、意識をローカル1に戻して、CDプレーヤーのボタンを押して、再び、メタ・ミュージックを流し始めます。


再び、ガラスのピラミッド内に戻った私ですが、まだ、かすかに頭の芯がボーッとしています。


眠りに落ちていた時間は20分程度でしょうか。


ユアンさんもうたた寝しているようですので、起こさずにそのままじっとしています。


眠りに落ちている間に微かに考えていた事。


私がサイコメトラーなのは、ドラゴンライダーの名残だろうか、という事と。


ユアンさんがミカエルさんのフォーカス30以下の意識体だという事。


そして、かつてユアンさんが、私に『自分も夫にして欲しい』と言っていた事。


あの後、ルシフェルさんから、私が解放された時にかけられた言葉。


ルシフェル『第二ステージクリアだ。お前は愛に制限が無いことを学んだ。』


あれだけの虐待に対する答えとしては生ぬるい気がする。


そして、それ以前にあった、ユアンさんとのやりとり。


あそこで、彼を受け入れていれば、その後のルシフェルさんとのイベントは発生しなかったのだろうか…。


いや、やっぱり形を変えて、なんらかのイベントが発生していた気がする…。


RPGかよって気もするが。


そして、合同レトリーバルを主催する私のメインガイドなのに、彼にはレトリーバルの能力がない。


彼が私のメインガイドである、その理由は何なのか…。


やはり頭がはっきりしなくて、考えがまとまりません。



(そういえば、どうして、このピラミッドは私達だけしかいないんだ?)


ちょっと意識を探ってみます。


すると、ピラミッド内が菱形のいくつもの空間に区切られている様なビジョンが見えます。



(あ、いるいる。私以外に3人いるな。


 私が、今は誰とも会いたくないと思っているから、こうなっているんだろうな。


 位相をずらす感じだな。同じピラミッド内にいてもそれぞれかち合う事は無いんだな。
 ふーん、面白い…。)


そうして、少しの間、おとなしくソファに腰かけていたのですが。


そのうち、共同探索に行きたくなります。


私は、こそーっと、ピラミッドの外に出て、関西コミュ内を歩きはじめます。


すると、頭の芯がボーッとして、なんだか、うまく周りの状況を把握できません。


(これは、カフェ咲咲は、到底無理だな。給仕とかできんもんな。)


そうこうして、歩いていると、白い物にぶつかったり、ぶつかられたりするのですが。


一瞬、記憶が飛んで、そんな事を何度か繰り返して。


気付いたら、バロンさんのバーに辿り着いていました。


私はカウンターになだれ込むようにして、両手をつきます。


私「バロンさん、オレンジジュースくださいぃ!」


バ「お疲れのご様子ですね。
  かしこまりました。


  そういえば、○○さんがしんじゅ☆♪さんを探していらっしゃいましたよ?」


私「えぇ~?私、あの人、苦手なんだよなぁ…。」


バ「おやおや^^」


バロンさんは私に背を向けて、グラスをカチャカチャしながら、片思いですねぇとか言っています。


カウンターに顎をのせて、ひはひは言っていると、目の前にオレンジジュースのグラスが差し出されます。


私は肘をつきながら、両手でその冷たいグラスを掴み、ストローを無視して口をつけてゴクゴクという音を立てながら飲み干します。


100%荒しぼりのオレンジジュースが喉を滑り落ちていきます。


中央がくびれた、背の高いガラス製のグラスの中に沢山の氷を残し、空のグラスをカウンターに置きます。


タンッ!カラカラ…。


私「プハーッ!!おいしっ!ご馳走様。」ラブラブ!


(うを。なんか、しっかりしてきた。ん?)


さっきまで、近視の様にぼやけた視界がクリアになりました。


背後に私のメインガイドである、黒衣の騎士:ユアンさんが両手を組んで佇んでいます。



私「あ、ユアンさんもこっちに来て、ゆっくりしてったら?


  もう、共同探索にでかけないから。


  いつも、自分勝手でごめんね。」



私はカウンターを退いて、そのすぐ斜め後ろにある白い椅子に腰かけます。


私と入れ替わるように、ユアンさんがカウンターに腰かけます。



(そういえば、ユアンさんと、このバーに来た事が無かった気がするな…。)


メインガイドだというのに、この仕打ち。
いつまでたっても、ユアンさんに対して、思いやりとか配慮が欠けている私なのでした。


ユアンさんは、こちらをチラリと振り返りながら、カウンターの席に腰かけて、バロンさんにモスコミュールをオーダーしたようです。


(ユアンさん、お酒飲むんだ…。意外。)



今日の彼は背中にマントをつけていないので、ただの黒色の襟元がくしゅくしゅした感じのハイネックと。
黒色のボトムを履いているので、普通の青年のように見えます。


自分がお酒がまったくダメな関係で、なんとなく、ユアンさんもお酒が飲めないものと思い込んでいましたが。


そういえば、以前、一緒にドイツビールのビアグラスを酌み交わしたんだった、と思い出します。


私は彼の斜め右後ろから、彼の背中を眺めるかっこうで、背もたれのある椅子にだらしなく体を預けています。


(…黒ずくめの格好だけど。彼なら淡い藤色とかパステルカラーも似合いそうだな…。)


姿勢よくスツールに腰かける細身の彼の姿を、私は背後から眺めています。


黒くツヤツヤと輝く短い髪の毛に全身黒色のファッションの彼の姿は、そこだけグッと視線を引き込む魅力があるように感じます。


カウンター側からの光を受けて、白く光る彼の端正な横顔をみていると。


(うまそうな、ニンジンだな…。)


そんな事を考えている自分がいます。


カウンターに置かれた、氷が浮かんだ、白濁した飲み物が入ったグラスを彼が手に取ります。


彼の長い指が背の低い、円柱形のグラスに添えられるのを見て。


(お酒を嗜む男の人って、なんだか、頼もしいな…。)ラブラブ


ユアンさんの事を、自分としては中性的というか、保育士さん的に感じていた私は。


グラスを掴む彼の手元に男の人の色気を感じてしまい、ついつい見入ってしまいます。


ユアンさんは、私の気配を察してか、こちらを振り返ります。



私「あ、ゆっくりしてってね。」ニコニコ



私は片手をあげて、笑顔で手を振ります。


彼は再び正面を向いて、ゆっくりとお酒に口をつけ始めました。


(真っ赤に実って、おいしそうなニンジンだ…。)



私は自分の事を馬の様だと思っていたので。馬


ユアンというニンジン(大好物)を鼻づらにぶら下げられて、それを食べたくて必死で走っている。

そうして、フォーカス100まで辿り着くことができたのでしたが、結局人参は食べられず。


火事場の馬鹿力は出るけど、周りが見えていない、そんな人間だと、思えてきてたので、ユアンさんの事を人参に例えていたのでした。



(彼に恋焦がれて、文字通り身を焦がしてフォーカスエリアを突破していったけど。


 …そういえば、どうしてフォーカス100だったんだろう。


 単純にミカエル邸がフォーカス100にあったから、という事も考えられるが。


 それこそ、フォーカス60とか、70で十分だったんじゃないか?


 あの波動では、人間が知覚する上で、60以上と100では、そう意味ないだろうし。


 なんだろう、どうしても何者かに嵌められた感がぬぐえないな…。


 ん…。考えがまとまらない。


 それに、しんどくなってきた。やっぱり本調子じゃないな。


 そういえば、コイツ、いったいいくつなんだ?


 私が子供の頃で4~5歳年上って感じだったのに。


 なんで、今、私より若くてかわいいんだ。


 ちぇっ。

 でもまぁ、せっかく、ユアンさんがお酒を楽しんでいるんだ。


 せめて、ゆっくり飲み終わるまでは待ってないと。


 それと、できれば、あかりの居酒屋とか、シンコポにちょっと寄りたいんだけどな…。)



そんな事を考えていたら、ユアンさんが傾けたグラスに口をつけながら、こちらを振り返っています。


彼の黒曜石の様な漆黒の瞳が下からの白い光に照らされて、鋭くキラリと光って見えます。


彼のこちらを見る眼差しにドキッとして、今考えていたことがバレてしまったのかと内心肝を冷やして苦笑いを返していると。


彼はそのまま、一気にグイッと杯をあけて、カウンターに空のグラスを叩きつけるようにして、席を立ちます。



ユ「やっぱり、連れて帰る。」


私「え。」


(具合が悪いのが、バレた?ガラスのピラミッドへ戻るの?)



ユアンさんは私を抱きかかえるように背中に両腕を回して、そのまま意識体を瞬間移動させました。


(つづく)