ふと目を開くと、ユアンさんの胸元にもたれかかるようにして横たわっているのに気付いきました。

顔をあげると頬を撫でる風に目を細めます。

私達は、あたり一面、オレンジ色のポピーが咲き誇っているどこかの山のなだらかな斜面にいました。


私「うわ!綺麗な花畑だ。」


どこまでも続く淡いオレンジ色の花びらが、風にそよいで重なり合い、さまざまなオレンジの濃淡を描き出しています。

青空はどこまでも深く澄んで青く、花びらを彩るように緑のじゅうたんが視界の続く限り広がっていて。

まるでジブリ映画の『ハウルの動く城』にでてくる、ハウルがヒロインに住むように勧めた山小屋の風景の様でした。

しかしここには映画と違って、ハウル少年が過ごした山小屋がありません。

山小屋どころか、人工的な匂いが一切感じられず、ここがフォーカスエリアなのだと痛いほど感じます。


私「なんて綺麗な…。どこ?ここは…。」


後ろに両肘を支えにして、上体を起こしたユアンさんが体を起こした私を、下から見上げて微笑んでいます。


怖いくらいに咲き誇るオレンジ色の花々と、対のコントラストを描く青く澄んだ空。

大きく盛り上がった白い雲が勢い良く、音もなく大空を流れていきます。


誰もいない…。なんだか怖い…。


ユ「…やっぱり、君は、ここを覚えていないんだね。」


声のする方に視線を動かすと、ユアンさんがさみしそうに、そう呟いていました。


私「え?知らないよ、ここ…。

  何…。」


不思議な違和感を覚えます。


私「初めて来たもの、ここ。

  覚えていないって…?」


ふと、脳裏に外国人の老夫人が怒りの表情を見せ。

白刃が閃き。

誰か初老の男性が怒号を飛ばす…。


そんなイメージが一瞬、フラッシュ・バックの様に頭に浮かびました。


私「え、知らない。あ、でも…思い出したくない。

  私は知らない…。」


私が絞り出すように、そう、つぶやくと。


ユアンさんが、とても悲しそうに微笑んでいました。

そして、私の手を引いて、立ち上がらせると、そのまま少し花畑の中を二人して歩きます。


少し歩くと、丸い囲いがされた泉が見えてきました。

直径5~6m程の泉で、石製のへりがあり、まるで噴水の様な感じです。


ユ「ここの泉に足を浸すといい。

  ヒーリング効果があるよ。」


私はその石製のへりに腰かけて、素足を浸します。

澄んだ水はとても冷たく、ヒーリングというより、痛いぐらいです。


私が振り返ってユアンさんを見ると、彼は静かに私を見つめて、表情を変えずに声をかけてきます。


ユ「もっと足を浸すといい。」


なんとなく、ユアンさんの雰囲気がいつもと違う気がしますが、促されるまま私はふくらはぎの所まで素足を水に浸します。


私「……。」


冷たく、澄んだ水は、綺麗なんですが…。

ヒーリング効果というよりは、むしろ…。


自分の白いふくらはぎを見るともなく見ながら、ボンヤリそんな事を考えていると。


ゾクリ、と背筋に悪寒が走ります。


私「何。」


体をビクッとすくませてユアンさんを振り返りますが、彼は表情を変えません。


ふと自分の足元を見ると、水中から白い女の手が伸びていました。