♪丘のふもとにおばあさんが……♪
アメブロの「笑い仮面」さん
が書いていた詩を見て・・・。
私の故郷にもおばあさんがいた。
ふと、思い出した。
自分の生まれ故郷を。
四畳半の台所、六疊の和室。
トイレはあったが風呂は無い。
二階建てになった長屋風のアパートに、親子4人で住んでいた。
小さい記憶なのに、なぜか今でも覚えてる。
肩を震わせて泣いていた母親の後ろ姿。
あれから何十年経っただろう…。
私は、そのアパートの前に立っていた。
昔と変わらないが、ひどく小さく見える長屋。
玄関の扉は疲れはて、入口のわずかな階段にはヒビが走っていた。
ふと、台所の小さな窓から、見知らぬおばあさんの顔が出た。
私のことを不思議そうに見ている。
私は何の抵抗もなしにおばあさんに声をかけた。
「こんにちわ」
「はい・・・こんにちわ」
「すいません・・・昔ここに住んでいた者です。懐かしくて・・・」
おばあさんの顔はほころんだ。
私は暫くおばあさんと話をした。
私はしきりに、昔と変わらないことを確かめようとしていた。
そして、また十年が経った。
母が私に話しかけた。
「この間、西玄衣町のアパートを見てきたの」
私の顔はほころんでいた。
「ああぁ、懐かしいなぁ」
母は話を続けた。
「もう、建て壊されて、無かったわ」
「・・・」
私の生まれ故郷がとうとう無くなった。
(今の長屋跡。しまった!昔の長屋をグーグルで撮っておけばよかった…)
二階には「かぎっこ」が住んでいた。
悪いことを一杯教わった。
隣には初恋の「ミネちゃん」が住んでいた。
とはいっても私は年下で、ミネちゃんは幼稚園。
大切にしていたのに…一緒に撮った写真がどうしても見つからない。何処へいったのだろう。
その隣は、私より一つ下の「トッチャン」がいた。
トッチャンの家は私にとって完全に別邸だった。
長屋の小ささなんか関係ない。
私にとっては長屋そのものが自分の家だったから、ここは豪邸だった。
毎晩夕暮れどきになると、母親と私は長屋版もぐらたたきゲームをしていた。
近所に庭石屋さんがあって、飛び跳ねていたら石から落ちた。
手を見るとなぜか真っ赤に赤かった。
私は泣いた。
加茂中の女の子が私を抱えて病院に運んだ。
私はなぜか、その女の子の胸の膨らみに顔を埋めて、無理ぎみに泣き続けた。よく覚えている。
近所に製材所があった。
そこには怖いにいさんがいた。
その兄さんに見つかると、一生家には帰れないことを知っていた。
角の家にはおばあさんが住んでいた。
いつも梅干をくれた。
梅干は酸っぱいはずなのに、なぜか甘かった。不思議な梅だった。
毎日銭湯に通った。
「走るな」
父親から何度も怒られたのに、よく転んだ。
小学校1年生の給食でくじらの唐揚げが出た。カレー味。
私は嫌いで食べなかった。
「それを食べるまで授業をしませんから」
先生に言われた。けれど、泣いてでも食べなかった。
5時限目が終わって先生はとうとう諦めた。
不味かった…今では高級品だって?世の中おかしいぜ。
そんな記憶が静かに沈んでいった。
しかし、なぜか私はそのことより、10年前に話したおばあさんの顔が浮かんだ。
おばあさん、どうしているかなぁ…。