「チェルビ」第六十三話 恋愛連載小説
最終話に向けて、一生懸命書き続けます!!
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三十秒前。
会場全体が、カウントダウンの掛け声をはじめた。
十秒前。
ステージの照明が消えた。
会場を照らしていたライトも、光を落としている。
電光表示板の数字だけが浮かび上がる暗闇の中、カウントダウンの声がどんどん大きくなる。
少しだけ熱気を含んだ空気が、会場全体を覆っている。
年明けだ。
ステージの後方から、上空に向けて数発の花火が上がった。
弾け散る色とりどりの光の結晶。
オンタイムで、耳に届いてくる連続した爆発音。
新年を祝うショーの舞台となった冬の夜空。
その空へ向けて、歓声があがる。
ステージの照明や、会場のライトが灯りはじめた。
僕たちの前にいるカップルは、キスをしている。
「後で・・・」
言ったあと、恥ずかしそうに抱きついてくるユイ。
僕の胸に、顔全部を埋め込んでくる。
赤い髪が、唇に冷たい。
僕は、腕の中の少女を、更に強く抱き締めた。
少女は、期待どおり、それに応えてくれる。
僕は、少し苦しいぐらいに強く抱きつかれたが、心地よさが数倍勝っていた。
ステージ上では、五組のアーティストたちと司会の二人が、合唱をはじめていた。
会場全体も、徐々に合唱しはじめている。
歌の途中で、僕とユイは帰りの混雑を避けるため、会場から退散した。
自動販売機で暖かい缶コーヒーを買って、車に乗り込んだ。
「寒かったけど、楽しかったな」
「うん。あんなに近くで、花火見たの初めてやわ」
「ユイ。あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
新年の挨拶が、合図になった。
今年初めてのキスは、今までのキスの中で、間違いなく一番冷たい。
外気温との差が無い、全てが冷えきった車内。
やわらかく、冷たい感触は、ユイの白い笑顔に似合いすぎている。
冷たくなっている赤い髪を、もう一度、後ろへ追いやる。
閉じられた瞳を飾る長いまつ毛は、うっすらと凍っているように見える。
冷たくなっている白い頬のなめらかな感触を、折り曲げた右手の人差し指の背で楽しむ。
二回目のキスで、お互いの体温を分け合った。
相手の顔に触れる鼻の先で、自分の身体の冷えきり具合を確認できる。
二人の息が作り出したすりガラスが、外の光を青白く乱反射していた。
しばらくしてから、車を走らせた。
この近くに、なかなか有名で大きな神社がある。
カウントダウンイベントの後に、初詣。
僕たちの年末年始は、内容の濃いものだった。
神社付近は、すでにたくさんの人で賑わっていた。
夜店もたくさん並び、眩しすぎる光と喧騒音の大きさは、現在の時間帯には不自然だ。
近くのモータープールに車を停めた。
神社の周りは、車両通行止めになっている。
人の流れに乗って、本堂へ向かう。
入場制限されるほどの混雑だ。
賽銭箱付近では、身動きが困難になるほどの人だかりだった。
僕とユイは、百円玉を一つずつ賽銭箱に向かって投げ入れた。
多分、賽銭箱には入らず、周りに敷き詰められた白布の上に落ちたと思う。
二回、手を打つ。
両手を合わせ、目を閉じて、少しだけ頭を下げる。
神さまへの頼みごと。
今回は、複数ある。
かなり真剣に頼み込んだ。
今のところ僕が勝手に期待しているユイとの将来のこと、今年からスタートする新しい仕事のこと。
最後の頼みごとの前に、合わせた両手に力を込めた。
(ユイが、幸せな一年を過ごせますように)
自分以外の人間に対しての頼みごとは、生まれて初めてのことだった。
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