「チェルビ」第六十話 恋愛連載小説
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買い物を済ませて、ユイの実家に戻った。
お父さんは、荷物を持って先に家に入っていった。
「ごめんね。今日、迎えに来てくれるって言ったら、前に一緒に晩ご飯食べる約束したこと、思い出したみたい」
ユイと一緒に、家に上がった。
六人掛けのソファーは、丸くなったチェルビに占領されている。
自分の領地が侵害されることが心配なのか、じっとして、こちらを見ている。
彼女は、すっかり新しい環境に慣れたようだ。
完全に、この家の飼い猫の雰囲気をまとっている。
大きな窓サッシの側に、餌と水を入れる容器が置いてあった。
「こんにちは」
キッチンカウンターの向こうから、明るい声が聞こえる。
「あっ、こんにちは」
お母さんは、何か料理をしている。
お父さんは、買ってきたものを、自分で皿に盛り付け始めた。
「何か、手伝います」
僕の申し出は、あっさり拒否された。
ユイとチェルビと僕が座っているソファーは、座り心地が良すぎて落ち着かない。
テレビの大画面には、全く興味が湧かない番組が映し出されていた。
借りてきた猫の気持ちがわかる、というのはチェルビに対して失礼かもしれないが、そんな気分だ。
ユイの携帯電話が鳴った。
どうやら奈緒ちゃんのようだ。
駅に着いたので、迎えに来てほしいという催促の電話だ。
僕とユイとチェルビは、車で駅に向かった。
改装したばかりの駅は、綺麗な景観だ。
広すぎるほどのロータリーを、ゆっくり走る。
「あっ、あそこ。黒いコート着てる」
ユイが、すぐに奈緒ちゃんを見つけた。
「おじゃまします。あっ、チェルビも迎えに来てくれたんや」
後方から、柑橘系の香りが漂ってくる。
ルームミラーに映る女の子は、間違いなく美人の部類に入るだろう。
思い切って、気になっていたことを質問してみる。
「奈緒ちゃん、彼氏おるの?」
「あっ、いますよ」
ユイが、後ろを振り向いた。
「ヒロ君と、もう何年になるん?」
高校生の時、同じクラスだった男の子と、ずっと続いているらしい。
「イクオ君、ナンパの名人なんやろ。わたしの彼氏、めっちゃ真面目やから、ナンパとか絶対無理やわ」
ユイが奈緒ちゃんに何を吹き込んだのかは、わからない。
美人姉妹がいる車内は、とても華やいだ空間だ。
いつもよりおしゃべりなユイは、膝の上でおとなしいチェルビを優しく撫でている。
家に戻ると、ダイニングテーブルの上は、大きなホットプレートを中心に、ご馳走を予感させる食材が配置されていた。
肉と野菜が盛り付けられた大きな皿。
そして、キッチンペーパーの上に、規則正しく並べられた大量の餃子。
「あっ、餃子や」
奈緒ちゃんが、嬉しそうな声をあげた。
「お母さんの餃子、めっちゃ美味しいねん」
ユイも、とても嬉しそうだ。
姉妹は、自分たちの母親が大好きなのだろう。
「お母さん、ありがと」
ユイと奈緒ちゃんが、食事の用意をするお母さんを手伝う。
僕が、最後に自分の親に感謝の言葉をかけたのは、いつの日だろうか。
お父さんは、食材をホットプレートの上に並べはじめた。
時計の針は、まだ五時半に届いていない。
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