「チェルビ」第五十九話 恋愛連載小説 | 「おっちゃん王国」NTG(大人になりきれないおっちゃん)のブログ

「チェルビ」第五十九話 恋愛連載小説

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「ユイ。そろそろ帰るわ」


「うん」



全員で玄関まで見送りに来てくれた。


チェルビは、奈緒ちゃんに抱かれている。


「こんな田舎やけど、また来てください。今度は、晩ご飯を一緒に食べましょう」


笑顔のお父さんが、握手を求めてきた。


「はい、また来ます。今日は、本当にありがとうございました」


温かい感触は、僕の幼い決意にも伝わってきた。


「イクオ。今日はありがと。また、大晦日ね」


ユイが、車を停めているところまで見送りに来てくれた。


帰りの高速道路は渋滞がなく、冬の夕焼けに色塗られた空の色は、美しいグラデーションに晴れ渡っている。


綺麗な景色は、僕の考え事を、深い場所へと引き込んでいく。


僕とユイの“これから“が、更にその先があることを前提に、どんどん進んでいく。


妄想が現実からかなり遠退いてきた頃、高速道路を降りた。


料金所で支払いを済ませた。


フロントガラス越しに見える、少しだけ懐かしい街並み。


古くからある結婚式場も見える。


僕の心の隅に新しく生まれた夢は、どうやら大変なことなのだと実感した。


家に着くと、弟がちょうど帰ってきたところだった。






大晦日。


この日は、朝から、自分で洗車した。


母親が用意してくれた昼食を、家族全員で食べた。


「良いお年を」


帰りは来年になる。


両親と弟に、今年最後の挨拶をした。


ユイの実家に向かう。


昼すぎの高速道路は、スムーズに走ることができた。


FMラジオは、僕たちが行こうとしているカウントダウンイベントの告知をしている。


高速道路を降りて、国道の路肩に車を停めた。


ユイに電話して、もうすぐ着くことを伝えた。


ユイの実家の前に、ユイとお父さんが立っている。


「こんにちは」


助手席の窓を開けて、挨拶をした。


「晩ご飯、ウチで食べよ。いいやろ?」


ユイは、後部座席ドアを開けて乗り込み、シートの中央に座った。


助手席に、お父さんが座る。


「ごめんやけど、スーパーまで行ってくれるかな?」


「あっ、はい」


予想外の展開だった。


国道を少し走ったところに、大型のショッピングモールがあった。


立体駐車場は、空いているスペースが目立っている。


店内の買い物客は、まばらだった。


「しゃぶしゃぶと焼肉、どっち食べたい?」


お父さんが聞いてきた質問の素晴らしさで、少し残っていた緊張感が薄まった。


「焼肉がいいです」


最近、友人と食べたばかりだが、今日も焼肉を食べたくなった。


僕は、本当に焼肉が大好きだった。


カートの買い物カゴに、色見のいい肉や野菜が、どんどん投入されていく。


「デザートがないな」


「あっ。わたし、アイスがいい」


親子の会話から、ユイは幸せな家庭環境で育てられたことがうかがえる。


僕が勝手に思い込んでいた、世間一般の父親と娘の関係とは、全く違う。


この素敵すぎる環境は、僕という外来種の侵入によって、バランスを崩したりしないのだろうか?


あまりにも無防備な受け入れ体制は、この父親が、自分の娘を信じきっている証拠なのか?


自分たちが育て上げた娘や、築き上げた幸せ。


それらを含めた、現在の自分に対する確固たる自信なのか?


将来はこうありたいと思い描く大人が、目の前にいる。


大きな存在がもたらしてくるものには、希望と不安が強制的にセットされていた。





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