「チェルビ」第五十六話 恋愛連載小説
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高速道路を降りて、国道沿いのコンビニの駐車場に車を停めた。
ユイは、まだ眠っている。
リードを着けたチェルビを連れて、外に出た。
店の建物の裏に回った。
広くはないが、草むらがある。
軽快な足取りで、チェルビは草むらの真ん中を歩きだした。
静かな場所だ。
冬の日射しと冷たく乾燥した風は、ゆっくりした時間を作り出す。
いくつもの低い山が近くに見えた。
車に戻り、チェルビにはペットキャリーに入ってもらった。
ユイは、自分の腕を枕代わりに、横向きになっている。
静かな寝息の少女は、夢を見ているのか、口元が少し笑っている。
とても幸せそうな表情は、鮮明な静止画像で、僕の記憶に刷り込まれた。
「ユイ」
頭を撫でてみる。
窓から射し込んでくる光。
赤く反射する髪は、いつもと同じ感触だった。
「あっ、もうここまで来たんや」
ユイは、体を起こして、ペットボトルのスポーツドリンクを一口飲んだ。
「どう?大丈夫?」
「うん。薬が効いてるみたい」
くすぐったがる細い首元に手を回すと、熱くなかった。
ユイの実家は、ここから車で十五分ほどの距離だ。
「このまま、家まで行くわ」
近くの駅まで送り、ユイの家族に迎えに来てもらう予定だったが、短時間でも病人を放っておくことはできない。
それに、ユイの親に、取り敢えずだけでも、挨拶しておきたかった。
ユイも、僕の考えに賛同して、携帯電話で実家に連絡を入れた。
「なんか、喜んでるみたい。連れておいでって。わたしが、送ってもらうのに」
その一言で、少し気が楽になった。
車を走らせて、途中の洋菓子店に立ち寄った。
ユイの両親と妹の分、僕たち二人の分の合計五つのカットケーキを買うことにした。
色も形も様々なケーキを前にして、僕たちは盛り上がった。
時間をかけて選んだケーキは、全部、違う種類になった。
国道から少し山側へ向かうと、数件の民家の集まりがあった。
「そこ。どこに停めてもいいよ」
どこまでが、畑なのか野原なのかわからない、広いスペースが道沿いにある。
ゆっくりとそのスペースに乗り入れて、車を停めた。
僕の車以外には、大型のバンが一台と、軽自動車が二台ある。
ユイの荷物を持って、レンガ造りの壁伝いに歩く。
入口で立ち止まった。
豪邸にふさわしい立派な表札に“SASAKI“と刻まれてある。
「マジで、お嬢様やったんや」
「だから、ホントにお嬢やでって、言ってたやろ?」
チェルビが、先に敷地の中へ歩いて入っていく。
まるで、昔からここに住んでいるように、堂々とした後ろ姿だった。
ケーキとペットキャリーを持ったユイが、その後ろをついていく。
「どうぞ、入ってきて」
「はい」
不思議な緊張感が、発する言葉を制限してしまう。
手入れの行き届いた草木が、光と影の見事な空間を作り出し、玄関まで続く小道を演出している。
(ウチの庭と、全然違う)
背の高い立派なドアが、僕たちを出迎えてくれた。
横の壁には、綺麗な花が入った金属製のカゴが吊されていた。
「いらっしゃい」
敷地の奥から現れた一人の女性。
この家の演出家であることが、容易に想像できる。
光と緑の中、その存在は、一瞬で僕の意識と時間を止めてしまった。
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