「チェルビ」第五十話 恋愛連載小説
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遅刻ではなかったが、いつもより遅い時間に、会社に到着した。
着替えを済ませて、休憩室に向かった。
朝礼が始まるまで、少し時間がある。
休憩室の近くまで来ると、やけに騒がしい感じだ。
みんなの笑い声が聞こえる。
「お早ようございます」
木下さんが、僕に気付いた。
工藤主任や、他の人たちと朝の挨拶を交わす。
テーブルを挟んで、工藤主任の前に、スーツ姿の若い男性がいる。
僕と同い年か、年下くらいだろうか?
洒落た眼鏡が、知的な雰囲気だ。
「神崎、彼が早川君や」
工藤主任が、僕を紹介した。
(この人が、神崎マネージャー)
もっと年配の人なのかと思っていた。
時々、社内で見かけたことがある。
営業部の若手社員だと思っていた。
「お早ようございます」
神崎マネージャーが、椅子から立ち上がり、丁寧に頭を下げてきた。
つられて、僕も深くお辞儀をした。
「この前は、ありがとうございました」
また、頭を下げてきた。
「なんとか、うまくいったみたいで、よかったです」
神崎マネージャーは、先日、システム管理会社から、相当きつく怒られたようだ。
そのことをニコニコしながら、明るく話すのを見ていると、全然堪えていないように見える。
「早川さん、ああいったことの経験者なんですか?」
「いえ、全く初めてです」
僕は、パソコンスクールに通っていること、来年早々には修了すること、趣味でポストカードを自作していることを伝えた。
「そうなんですか。てっきり、どこかでやったことのある人だと思ってましたよ」
神崎マネージャーは、明るい人だ。
表情や話し方から、それが伝わってくる。
そして、多分、いわゆる“仕事ができる人“だ。
眼鏡越しの視線は、僕に心地いい緊張を要求してくる。
先日の電話でのやりとりと、自分がやったことを思い出すことがある。
その時は、ちょっとした興奮状態になる。
鼓動が早くなり、鼻から吸い込む空気が肺に入っていくとき、熱く重く感じる。
何かをしたくて、たまらなくなってくる。
僕は、この人が気になっている。
そして、とても、気に入っている。
朝礼の時間だ。
なぜか、神崎マネージャーも、朝礼に参加している。
朝礼が終わり、仕事の段取りについて打ち合わせを始めた。
神崎マネージャーは、まだ一緒の部屋にいる。
壁を背に立ったまま、少し何かを考えているような表情だ。
突然の出来事だった。
「工藤さん、早川さんをウチにください」
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