「チェルビ」第四十六話 恋愛連載小説 | 「おっちゃん王国」NTG(大人になりきれないおっちゃん)のブログ

「チェルビ」第四十六話 恋愛連載小説

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「俺も、あの店の時計で、欲しいの、いくつかあったよ」


ユイに、時計を返した。


赤い時計は、ユイの左手首に戻った。


「イクオの誕生日に買ってあげる」


「ありがと」


僕は、三月の誕生日で二十六歳になる。


ユイは、時計を着けた手首が少し痛いらしい。


革ベルトがまだ硬く、ユイの手首の形に馴染んでいないためだ。


一週間もすれば慣れるだろう。


赤い時計を確認したユイが、もうすぐ午後四時になることを教えてくれた。




週明けから、仕事は忙しい。


工藤主任から新しい仕事の指示が、次々に追加される。


中には、至急の変更の指示もあり、現場は忙しい空気で満ちていた。


焦りや混乱はなく、活気があるといった雰囲気だ。


一通りの仕事が、片付く見通しがついてきた。


時間を確認すると、夜の十一時を回っていた。


この日は、家に帰ることができたのだが、眠りにつく頃は、深夜一時を少し過ぎていた。


翌日も、忙しさは変わらない。


物流管理部の全社員は、休憩らしい休憩もなく、動き回っていた。


夜七時半に、会社から弁当の差し入れがあった。


「お疲れさま。早川ちゃん、大丈夫か?」


同じ物流管理部の先輩である木下さんが、声をかけてきた。


「まだ、少しぐらいなら、いけると思います」


「そっか。多分、今日が一番しんどいで」


木下さんは、僕より一つ年上で、昼休みや休憩時間には、一緒にいることが多かった。


今日は、会社に泊まる覚悟をするように、前もって言われていた。


夜十一時を過ぎて、営業部と制作部の人間は、退社した。


僕たち物流管理部が、今夜、寝泊まりするのに、営業部と制作部が一緒になった部屋を使うためだ。


深夜一時を過ぎて、業者がやってきて、レンタルの布団を持ち込んできた。


それを合図に、社内に残っていた全社員は、仕事を中断した。


靴を脱ぎ、スリッパに履き替え、ビルの三階へ移動した。


営業部の部屋は、タイルカーペットが敷かれていた。


その上には、既に布団が敷かれてあって、空調が快適だった。


見慣れない空間の静けさが、妙な緊張感をもたらしてくる。


五つのデスクで作られた島が三つあり、その島は横並びに配置されている。


どのデスクも、書類やファイルが散乱していた。


壁には、派手に彩られた手書きの営業成績表や、大きな文字や数字の営業目標が貼ってある。


大きなホワイトボードには、予定や連絡事項が、びっしり書き込まれていた。


部屋の中に、ローパーテーションで仕切られた一画がある。


そこは、制作部のスペースで、数台のパソコンとディスプレイが置いてある。


全て、電源が入ったままで、どの画面にも、おびただしい数のカラフルなフォルダが映しだされていた。


着替えを済ませて、布団に入ろうした時、制作部のデスクの電話が鳴った。


悪い予感を引き連れて、深夜の電話の音が鳴り響く。


僕の人生で、決して忘れることのできない時間が始まった。





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