「チェルビ」第四十一話 恋愛連載小説
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枯れた芝生の上を歩く。
防波堤の上に登るための階段に向かった。
「キャッ」
ユイの小さな悲鳴と、チェルビが威嚇の姿勢をとるのが同時だった。
フナムシだろうか。
小さな黒い大群が、カサカサという音と共に、一斉に防波堤の向こう側に、素早く移動した。
僕は、缶コーヒーを片手に持ちなおして、チェルビを抱えた。
僕の後ろに、ぴったりとついてくるユイ。
階段を昇りきって、防波堤の上に着いた。
二メートルほどの幅があり、人が歩くには十分だ。
二人並んで、防波堤に腰掛けた。
来る時に通ってきた橋が、ライトアップされた姿で、右上に見える。
正面の対岸では、工場の煙突たちが、白い煙をゆっくりと空へ吐き出している。
左前に、黒く穏やかな海が、視界の届く限り、ずっと向こうまで続いている。
いくつかの小さな光が点滅していた。
ユイが、僕の缶コーヒーのフタを開けてくれた。
「はい」
「ありがと」
チェルビは、僕の足の上に、座っている。
初めて見る海を、どう思っているだろう。
規則的な波の音が聞こえる。
ベタつく風が気持ち悪いのか、チェルビがしきりに、前足で顔を洗う仕草をしている。
「海なんか見るの、めっちゃ久しぶり」
「オレも」
ユイが、僕の左肩にもたれかかってきた。
白い指が、チェルビの背中を軽く撫でた。
「ユイ、年末どうする?実家に帰る?」
ユイの実家は、電車を乗り継いで、一時間半ぐらいの町にある。
いつでも帰ることができる距離だ。
「イクオは、どうするの?」
僕は、年末年始は実家で過ごす気でいた。
彼女ができて、仕事が変わり、パソコンの勉強をしている。
家族への報告が必要だと思っている。
地元の友人たちと会うことが楽しみでもある。
そのことをユイに話すと、ユイも同じようなことを考えていたという。
生活を含めた、今の自分の環境が、変化してしまったことを公表する。
ただし、二人が同棲のような生活をしていることは、まだ隠しておこうというのが、二人の決め事だ。
チェルビは、ユイの足の上に移動した。
年末年始の前に、クリスマスがある。
この話題は、盛り上がりすぎて、少し残っていたコーヒーが、冷たくなってしまった。
「帰ろっか」
チェルビは、ユイのジャケットの中に入ったまま抱かれていた。
ユイの白い顎の下で、猫の顔がこちらを向いている。
僕には、完璧すぎる光景だった。
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