「チェルビ」第三十八話 恋愛連載小説
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「ただいまー」
ユイが帰ってきた。
夜の九時を少し回っている。
「おかえり」
僕は、食器の洗い物をしながら応えた。
「あっ、置いててくれたら、わたしがやったのに」
ユイが、リビングに鞄を置いて、僕がいるキッチンにやってきた。
「どうやった?」
今日、ユイは日高さんの仕事先に、見学に行ってきた。
声の感じでは、なにかいいことがあったように感じる。
「うん。めっちゃ忙しそうで、大変そうやった」
冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を取出しながら、ユイが話しだした。
日高さんの会社では、営業マンが約十名、制作部スタッフが日高さんを含めて五名いるらしい。
日高さんは、営業マンと打ち合わせをしたり、デザイン画を起こしたり、制作スタッフに指示を出したりと、息つく間もないほど忙しい。
しかし、それを全く嫌がる様子はなく、むしろ楽しんでいるように見える。
他の制作スタッフは、日高さんをとても慕っているようだ。
現場の空気は、常に張り詰めているが、外から見ていても、活気があっていい職場なのがわかる。
ユイは、興奮気味に教えてくれた。
少し早口で、手振りを交えながらしゃべっている。
「また、来週、行ってくる」
「えっ!?採用なん?」
「ううん。また見学させてって頼んだ」
ユイが日高さんの会社で働くという話は、特にしていない。
とりあえず、何度か日高さんの仕事を見学したり、手伝いをする。
もし、ユイが本気で働きたくなれば、社員登用も考えてくれるらしい。
その程度の話しかしていない。
ユイは、敢えて様子を見てみると言っている。
ある部分では冷静だった。
自分の夢の実現のための道のりを、逆算しているようにも思える。
日高さんの会社で働くことが、その道のりにあるのか、ユイは見定める気でいるのかもしれない。
「チェルビ、明日迎えに行く?」
「うん。明日、バイト終わったら、迎えに行ってくる」
僕はユイの夢を、具体的には知らない。
少し前までは、それを聞くことは、ユイが嫌がるのではないかと、変な気を使っていた。
今は、聞くのが怖い。
今の僕が、ユイの夢を知ることは、心が耐えられない気がする。
未来の僕とユイ。
二人は、どんな二人になっているのだろう。
二人は、どうなっているのだろう。
僕は、どんなふうにも変わってしまう答えを考える。
現実と現在の問題も、無視できない。
漠然とした考えが、次第に形作られ、淡く色塗られていく。
自分の力で引き起こす自己改革と、環境がもたらす機会が出会った時に、劇的な変化が始まることを、この頃の僕は、まだ知らない。
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