「チェルビ」第三十七話 恋愛連載小説
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「ありがとうございました。めっちゃ楽しかったです」
ユイが、丁寧にお辞儀をしている。
「あっ。これ、猫ちゃんの新しいやつ?」
「そうです。今日のために、いくつか作ったんですけど、全部売れちゃって。残ってるの、それだけなんです」
横で会話を聞いていた僕は、片付けの手を止めて、チェルビを抱いて、女性オーナーに見せた。
「チェルビ、ほら、ありがとうございました」
チェルビは、両前足を、前に突き出した格好だ。
後ろ足は、完全に脱力している。
「チェルビちゃん、お疲れさま」
声を掛けられても、無表情で、全く動こうとしない。
「ほんまに、疲れたんかな」
チェルビを抱いたまま、お礼の挨拶を済ました。
「あっ、これ、よかったらどうぞ」
ユイが、売れ残っていたポストカードと半袖シャツを渡した。
「ありがと。チェルビちゃん、ホント、可愛いよねえ」
女性オーナーが、チェルビの首元を優しく撫でたが、チェルビは微動だにしなかった。
帰るときの荷物は、来たときの半分にもならなかった。
チェルビがいるということと、僕とケンゾーちゃんが「車を運転しなければならない」という理由で、みんなでの打ち上げは中止になった。
僕とユイは、帰り道、コンビニで缶チューハイとスナック菓子を買った。
そして、回転寿司屋で、持ち帰りの寿司を買って帰った。
「カンパーイ」
寿司を食べ終えて、缶のままのチューハイで乾杯した。
気持ちが落ち着いて、ベッドを背にもたれて座っていた。
つけっ放しのテレビから、映像と音声が流れている。
「よいしょ」
ユイが、僕の足の間に座り、もたれかかってきた。
ほとんどの体重がかかってきたが、嫌な重さではない。
赤い髪が、さらさらと、僕の鼻のあたりをくすぐってくる。
両腕で、大切に抱き締める。
僕の手首に、白くしなやかな指が、優しく触れる。
右手の親指の付け根に、暖かく柔らかな唇の感触があった。
心地いい感触は、僕の右手の甲に移動して、ゆっくりと離れる。
ユイが、身体を横向けにして、頭を僕の左肩に預けてきた。
僕の左の頬に、軽く、キスをする。
僕は、右手の指で、赤い髪にゆっくり触れる。
ユイは、目を閉じて、満足そうな表情だ。
顔を近づける。
ユイの黒い瞳が、現れた。
「イクオ・・・。今日は、ありがと」
もう一度、目を閉じるユイ。
キスの間も、テレビからの音声が聞こえてくる。
僕の首元に、小さな感触があった。
ベッドの上で遊んでいたチェルビだ。
ユイは、何も言わず、テレビを消して、今日の小さな功労者を、ダンボール箱のベッドへ移した。
しばらくすると、鳴き声と、動き回る音がしなくなった。
少しの明かりと、ほとんど聞こえない、小さすぎる寝息。
僕とユイの時間は、静かに過ぎていく。
心の片隅では、やはり、何かが気になっていた。
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