「チェルビ」第三十五話 恋愛連載小説 | 「おっちゃん王国」NTG(大人になりきれないおっちゃん)のブログ

「チェルビ」第三十五話 恋愛連載小説


「チェルビ」第一話~・目次 はこちらから(クリック)


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突然の話に、ユイは戸惑っていた。


正社員ではないかもしれないが、就職できるチャンスには違いない。


僕の気持ちは、過敏症みたいな状態になっていた。


喜ぶべき出来事なのに、ユイにかけてあげる言葉を見付けられない。


浅はかで、自虐的な考えしか思い浮かばない。


「ユイ。どうするの?」


何の解決にもならない言葉が出てしまった。


僕は、自分がとても惨めな存在に思えてきた。


そして、心から、ユイが羨ましかった。


僕の心は、今度は、それを否定しなかった。


夢を持つことへの抵抗はあった。


しかし、今思えば、それは僕の中に、夢への興味が芽生えた瞬間だった。


とても小さくて、透けるほど薄く、弱い思いだったが、はっきりと迫ってくるのを感じた。


何かをしたいわけでもない。


何かになりたいわけでもない。


ただ、今のままでいることに、理由もなく耐えられない気がしてくる。


複数の考えと思いは、ある答えに突き当たる。


後悔。


今までの自分が、ひどく腹立たしい。


自分自身に向けた怒りを消化する術を持たない僕は、ただ後悔するしかなかった。


数分の考え事。


自分の気持ちの整理は、後回しにして、もう一度、ユイに声をかけた。


「ユイ。今すぐ、日高さんのとこ、行っといで。絶対、チャンスやって」


「イクオ・・・」


「早く!チェルビと待ってるから。ダメでもいいやん。こんなんは、早いほうがいいねん。後悔するって!」


「うん。わかった。ありがと」


携帯電話を左手に握り締め、走っていくユイの後ろ姿。


自分の口から飛び出した、ユイにかけた言葉がおかしかった。


未来の自分自身に投げ掛ける台詞の練習のようだった。


チェルビが、ポストカードの一つと同じ格好で寝ている。


「チェルビ。お母さん、うまくいくといいね」


抱き上げると、眠った子猫の体温を手の中に感じる。


その軽さと柔らかさに、あらためて驚いてしまう。


段ボール箱のベッドへ移した。





ミニライブが終わった。


会場の通路に人の姿が増えはじめた。


ユイは、まだ帰ってこない。


大学生風のカップルがやってきた。


「このシャツ、めっちゃカッコいい」


彼氏が手に取った半袖シャツは、僕がデザインしたものだ。


「いいやん、それ」


彼女も気に入ったらしく、彼氏は手に取ったシャツを買ってくれた。


自分の作品が、他人から認められる。


不思議な感覚だが、悪い気がしない。


「ただいま。あっ、チェルビ、寝た?」


ユイが、帰ってきた。





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