「チェルビ」第三十三話 恋愛連載小説
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※次回、三十四話は、少し間が空くかもしれません。
「あっ!ケンゾーちゃん」
ケンゾーちゃんと呼ばれた青年は、明るい茶色の髪をしていた。
ショートヘアーで軽いパーマがかかっている。
髪と同色のアゴ髭は手入れされていた。
二人は知り合いだった。
ユイは高校を卒業後、デザイン系の専門学校に通っていた。
入学して二年目の夏休み前に、自分から辞めてしまった。
ケンゾーちゃんは、学校のグループ制作の授業で一緒だったらしい。
グループ制作の授業では、八人から十人ぐらいの人数で一つの作品を制作したり、いくつかの作品を分担して制作をするらしい。
彼も、ユイが辞めた同じ年の秋に学校を辞めたという。
二人の会話から、専門学校はかなり厳しい環境であったことが伺えた。
ユイとケンゾーちゃんの他にも、辞めた生徒がいるようだ。
ユイは、目的があって専門学校を辞めたと言っていた。
ケンゾーちゃんも、自分のやりたいことのために辞めたと言っている。
二人に共通するのは、学校は辞めてしまったが、自分の夢は諦めていないということだ。
金髪の青年はター君といい、もう一人の青年はマサやんと呼ばれていた。
この頃までの僕は、自分の夢というものを持ったことがなかった。
夢どころか、自分自身にも、真剣に向き合ったことがない。
特に何も考えず、普通だと思い込んでいる生活の中にいた。
満足もなければ、不安もない。
自覚症状のない人生。
将来という言葉には、現実味を見出せずにいた。
それが、僕の人生であり、僕自身だった。
「彼氏さんは、仕事してるんですか?」
ケンゾーちゃんの質問に応えた。
ター君もマサやんも、フリーターらしい。
みんな、正社員として働いている僕を「すごい」と言い、羨ましがっていた。
少しも嬉しくなかった。
ユイもケンゾーちゃんも自分の夢を持っている。
ター君もマサやんも、多分持っているだろう。
自分よりも年下で、アルバイトの仕事をしている彼らが、なぜか羨ましく思えた。
同時に、限りなく黒に近い灰色の焦燥感が、僕の内側からじわじわと圧迫してくる。
こんなにもわかりにくくて、嫌な気持ちは、生まれて初めての感覚だった。
自分自身では、それが何なのかわからずに、心の隅の暗い部分に、無理やり畳み込んだ。
応急処置。
この頃の僕にできる、最善ではないが、最大の方法だった。
ター君に抱かれていたチェルビが鳴き出した。
「多分、トイレやわ」
チェルビを受け取ったユイと僕は、自分たちの場所へ向かった。
振り返ると、三人は僕たちに向かって両手を振っていた。
爽やかな笑顔は、僕の心の隅を不愉快に刺激してきた。
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