「チェルビ」第二十九話 恋愛連載小説
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フリーマーケットに出品することが決定した次の日から、ユイはシャツやポストカードの製作に取り掛かった。
今まで自分でデザインした物のデータを引っ張り出して、色違いのデザインの追加や、レイアウト変更などの作業を行う。
目まぐるしく動くディスプレイの映像。
僕はチェルビを抱いて、その様子を眺めていた。
「イクオ。これって、こっちの色のがいいかな?」
「オレやったら、全体の色抜いて、この一部分の色だけ変えるんちゃうかな」
ユイが、勢いよく僕を振り返る。
驚いた表情で、目を輝かせている。
「ん?なに?オレ、変なこと言っ・・・」
言いかけのセリフは、前触れのないキスにより、途切れてしまった。
「イクオ、すごい!ありがと。それでいくわ」
僕の首に回していたユイの両手は、キーボードとマウスの操作に戻った。
どうやら、僕の一言でアイデアが数点浮かんだらしい。
ユイの唇の感触が薄れてくると、僕の頭の中で、何かが連続的に映りだした。
「チェルビ、ちょっと、ここでいい子にしてて」
片手に抱いていた子猫をディスプレイの前に置いて、僕は大きめのメモ用紙とペンを持って、テーブルの前に座り込んだ。
ユイの方を見てみると、チェルビが画面の中を動き回るマウスポインタを押さえつけようと必死だった。
画面の至るところを、前足で叩きつけている。
さっき頭に浮かんだ映像を思い出しながら、メモ用紙に写していく。
“絵を描く“という作業は、多分数年ぶりだ。
なぜか、ある情景が頭の中に浮かんで、それを形に残したくなった。
間違いなく、ユイからの影響を受けている。
書き上げた。
決して上手くはないが、なんとなく、自分では気に入った。
「ユイ、これポストカードとかにできる?」
メモ用紙をユイに見せた。
僕が描いた絵は、空想の情景だ。
広大な砂漠のような土地に、一本のアスファルトの道が蛇のように横たわっている。
手前にクラシカルな自動車がこちらを向いていて、そのボンネットに若い女性が腰掛けている。
ユイは、じっくりと時間をかけて、僕が描いた絵を見続けている。
なんだか、恥ずかしい気分になってきた。
「なんか、おかしい?」
「ううん。すごく、いいよ。これ、イクオが仕上げたほうがいいよ」
色やタッチのデザインは、自分が持つイメージを具現化するのだから、自分で仕上げたほうが納得できる作品になるということだ。
ユイが、僕にパソコンの操作方法や、画像処理のソフトの使い方を教えてくれることになった。
この日から、ユイのパソコン指導が始まった。
ユイが通うスクールのテキストを基に、思いのほか本格的な指導だった。
ユイが作った何点かのデザインデータと、僕が作った初めての作品データが一つ。
ユイがいつも頼んでいる業者にデータを渡して、あとは出来上がりを待つだけだ。
今回頼んだのは、ポストカードとA4サイズのミニポスター、半袖と長袖のシャツ、薄手の布製トートバッグ。
出品する作品の準備は整った。
僕は、自分専用のパソコンの購入を真剣に考えはじめていた。
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