「チェルビ」第二十七話 恋愛連載小説
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僕のマンションの一階は、駐車場になっている。
契約していたスペースに車を停めて、助手席側にまわり、ドアを開けた。
「また、寝たみたい」
ユイが抱えた段ボール箱の中で、チェルビは横向きになって、足を四本とも体の前に伸ばしていた。
部屋に入ってすぐ、ヤカンを火にかける。
ユイは、橋本さんにもらってきた古新聞を、ハサミで細かく切り刻みだした。
粉ミルクを入れたマグカップに、湯を注いでかき混ぜる。
水を張ったボウルには、氷をいれてある。
そこに、熱いミルクが入ったマグカップを入れて冷やす。
「わたし、明日、哺乳瓶とか買ってくるわ」
哺乳瓶だと、ミルクを作る際に、振って冷ますことができるし、温度もわかりやすい。
それに、チェルビが大きくなった時に必要だと教えてくれた。
ユイの頭は良く回り、手際も素晴らしかった。
「イクオ。ちょっと、チェルビ、持ってて」
ユイが、両手でチェルビを抱え上げ、僕の方へ持ってきた。
僕の両手の上に置かれた子猫は、驚くほど軽い。
この小さな体にも、僕たちと同じ命が宿っているのが、すぐには信じられない。
ユイは、段ボール箱の中から、バスタオルと新聞紙を取り出した。
バスタオルをたたみ直して、箱に戻す。
その上に、たたまれた新聞紙を置いて、さらに切り刻んだ新聞紙を敷き詰めた。
これで、チェルビの寝床が完成した。
僕の両手の上で、チェルビの目が開いた。
片方の前足で、自分の口元を撫でだした。
「やっぱり猫なんや・・・」と意味もなく感心していると、ユイが僕の手からチェルビをとりあげる。
湯で湿らせたティッシュで、チェルビの股間を突きだした。
チェルビが鳴いた。
初めて聞く声は、小さな体からは想像できないほど大きい。
「やっぱり、オシッコ出してなかったみたい」
ユイが持っていたティッシュの色が、みるみる変わっていく。
「イクオ。そこにあるミルクとお湯とスポイト、持ってきて」
ユイはスポイトでミルクを吸い上げて、片手で抱えたチェルビの口元に持っていく。
チェルビは、口を固く閉じて、顔を左右に振りイヤイヤをする。
そして、青い目を大きく開いて、鳴き出した。
もう一度、スポイトを口元に持っていく。
やはり、チェルビは嫌がった。
僕は真四角に正座したまま、その様子を見ていた。
「チェルビ!」
ユイが、怒った声をあげた。
チェルビは暴れながら、また鳴いている。
「ちゃんと、ミルク、飲まないとダメでしょ!」
体を目一杯反らして、スポイトから逃げるチェルビ。
「お願いやから、飲んで。チェルビ・・・」
ユイは、人差し指の先をミルクで濡らし、チェルビの口元に持っていった。
白く濡れた口の周りを、小さな舌を出して舐めている。
そして、鳴き出した。
鳴き声が、さっきまでと少し違う気がする。
「チェルビ、飲んで」
ユイが声をかけながら、再びスポイトを口元に持っていく。
飲んだ。
「よしよし。いい子、いい子」
凄い勢いでミルクを飲みはじめたチェルビ。
その姿に満足したのか、泣き出しそうだったユイの表情は、とても優しい笑顔になっている。
ふと、チェルビを産んだ母猫は、今ごろ、この子猫を探していないか、少しだけ気になった。
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