「チェルビ」第二十四話 恋愛連載小説
※「チェルビ」は、わたしが作った”語感”が気に入ってるだけの言葉です。
意味は、今後の展開の中でわかるかもしれません。
※感想をコメントしづらい方。「読んだよ」の一言だけでもいただけると、嬉しいし励みになります♪
早朝、と言えるような時間に目が覚めた。
雨はやんでいるようだ。
カーテンの向こう側は、多分青く暗い景色だろう。
痺れた右腕を、赤い髪からゆっくりと引き抜く。
白い寝顔をしばらく眺めていた。
満ち足りているような気分が、僕の表情を崩しにかかる。
ユイの目が、音がしたように、いきなり開いた。
「おはよ。まだ、寝てていいよ」
「おはよ」
ユイは、人形になる魔法をかけられたように、こちらを見つめたまま動かない。
何度目かのまばたきのあと、伸ばした両腕を頭のほうへ持っていき、猫のように伸びをした。
「家に帰って着替えてきていい?」
「うん。家まで送るよ」
布団の上で、正座で向かい合う。
小さなあくびを噛み殺すユイの赤い髪が、好き勝手な方向を指している。
「おいで」
僕の膝の上にまたいで座るユイ。
キスのあとも、二人はまだ目が覚めきらない。
部屋の鍵とユイの着替えだけを持って、外に出た。
光が足りていない街は、少し肌寒い。
ついさっきまで雨は降っていたようだ。
濡れたアスファルトの上を走る車の音が聞こえる。
気だるい足取りの二人は、無言だった。
ユイのマンションの前に着いて、濡れたままの着替えが入った袋をわたした。
あとで一緒にハンバーガーショップのモーニングを食べに行く約束をして、お互いの部屋に戻った。
僕とユイが会うペースは変わらなかった。
ただ、何日かに一度ぐらいは、ユイが僕の部屋に泊まりに来ていた。
僕がこの頃勤めていた会社へ出社できるのが、あと数日となった日の夜。
この日は、ユイが僕の部屋で晩ご飯を用意してくれた。
食べ終えてから、二人でテレビのバラエティー番組を見ていると、僕の携帯電話の着信音が聞こえてきた。
「もしもし」
「イクオー。今から来れるか?」
しゃがれた低い声は、橋本さんだ。
橋本さんは、下の名前を勇次(ゆうじ)といい、ユージローオートという小さな中古自動車ショップを経営している。
僕が大学生の時にアルバイトで世話になり、それから付き合いが続いている。
橋本さんは今年で五十一歳になる。
僕を自分の息子だと言って、可愛がってくれている。
実際に、僕と同い年の息子さんがいるのだが。
以前にお願いしていた安い中古の自動車が用意できたらしい。
「ユイ、今から車もらいに行くけど、一緒に行く?」
受話器を押さえながら、ユイに尋ねた。
「うん。一緒に行っていいの?」
橋本さんに、すぐに向かうことを伝えた。
出かける用意を終えて、僕たちは駅に向かった。
ユージローオートは、電車を乗り継いでいく必要があるが、ここから三十分ほどで到着できる。
僕は、新しい自分の車と初めて会うことは普通に嬉しかったが、なぜか、必要以上に気分が高まっていた。
この時の高揚感は、もしかしたら予感だったのかもしれない。
僕とユイにとって、この年の十月は忘れられないことが多すぎた。
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