風をよむ 2 理論と本能 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

風・・こっち・・
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腕立て伏せ・・・

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詳しい前後のいきさつは、いづれ「連載 東シナ海流」に書くが、日本列島最大の秘境と呼ばれるトカラ列島の果てに1隻で巨大魚を求めて三日間の遠征をかけた時だ。各地から屋久島の一湊港に集まった12名は随分前から準備、待ちに待ったこの日に夢を描いていた。船員は野人の他に2名、氷やエサを各1トン、食糧も4日分積み込み出航した。

無事に無人島に到着、2日目は風もなく海も穏やかだったが突然猛烈な不安に襲われた。野人が不安を感じることなどほとんどない。不安はすぐに恐怖に変わった。全神経を集中させると普段使われていない脳の機能が一斉に働き出し、わずかな電波や音波もキャッチする。脳がはじき出した結論は「猛烈な嵐が近付いている、すぐに逃げよ」だった。脳がフルに機能したことは幾度かあったが危機が近付いている時に限った。

屋久島の船舶基地には特攻帰りの高齢の海技免状講師が天気図を睨んでいたが、帰港を伝えると戸惑った。悪くなる要素はまったくないと言うのだ。船員達も帰港には反対だった。

乗客は本社重役の友人達で、本社に中止を連絡すると激怒した。天候は屋久島に確認済みだったのだ。しかし一番怒ったのは客達だ。磯の大物釣り経験も長く、常にラジオで情報を得ている。客も、船員も、基地も、重役も、気象庁まで向こうに回して野人は四面楚歌だった。この時ほど辛かったことはない。船長一人と海が相手なら何の問題もないのだ。自分達の運命は自ら決められる。しかし決断にまったく迷いもない。磯でグズッて船に乗り込もうとしない乗客に、乗らないなら置いて帰ると伝えた。急を要するのだ。

それから2時間の間、穏やかな海を全速で走る船長は針のむしろで、耳に栓をしたかった。

客はブリッジまで苦情を言いにきたが、料金は全額お返ししますと伝えた。判断の誤りで契約を遂行出来なかったのだから当然のことだ。

天候はそれから急変した。猛烈な風が吹き始め、1時間もしないうちに波高は3mを超えた。5m近くなるのは数時間後だろう。船は奈落の底に突っ込むように谷間に滑り落ちて、衝撃と共に波を船首からかぶった。扉やハッチをすべて閉めて浸水を防ぎ、潜水艦のように風波に翻弄された。途中から日も暮れて夜航海になると、暗闇から白い波頭が迫るのがかすかに見える。白い壁を越えなければ屋久島には戻れない。関節が腫れあがるまでブリッジで踏ん張って舵を取り続けた。横波を受ければ間違いなく転覆する。

夜中に一湊港にやっとたどり着いたが、岸壁の灯台の下に誰か人が立っている。防波堤を超える波しぶきにずぶ濡れで仁王立ちしていたのは特攻帰りの先生だった。

無事に着岸すると泣きながら野人の手を握ってくれた。15人も殺してしまった・・帰らなければ自分の身も海に投じる覚悟だった。そんな思いで常に判断を下していたのだから感謝はしても責めるつもりもない。

客も何人かは涙で野人の手を握り、非礼を詫びて心から感謝してくれた。後半は生きた心地もせず遺書を殴り書きした人もいたようだ。この海域でこの日、数隻が逃げ遅れて遭難した。

理論は人間がデータを集め、頭で組み立てたもの、間違うこともあるのだ。

しかし森羅万象に間違いなどない。すべては成るべくして成っている。

理系の野人は理論に沿って行動するが、最後は本能に勝るものは無く、自らの本能を信じて行動する。

理論は道具に過ぎず、人は機械ではなく生き物なのだ。