線維筋痛症とパニック②
線維筋痛症の女性患者①の続き。
初診2週間
ブロバリンとイソミタールでだいぶん眠れるようになった。眠れるので少し楽です。今はドーンと落ち込まない。今は4時間は眠れている。少しパニックは増えているような気がする。しかし、前の病院の時よりずっと良いです。エビリファイは気分がスキッとする感じがありますね。
アンプリットを増量する。2週間でイソミタールを追加し、かなり整理できた。リフレックスは彼女にとって効果が乏しく意味がないので中止する。
アンプリット 75mg↑
リボトリール 1mg
エビリファイ液 6cc
ルジオミール 25mg
ブロバリン 0.4
イソミタール 0.2
ロヒプノール 2mg
ユーロジン 2mg
3週間目
最近、パニックが多い。※
頭が混乱します。エビリファイ液のせいか日中の落ち込みが減ってきた。
アンプリットとリボトリールを増量する。1週間ごとの通院を希望。転院以降、調子が良いという。
アンプリット 100mg↑
リボトリール 2mg↑
(他変更なし)
1ヶ月
まだあまり眠れない日もある。気分の落ち込みはありますね。しかし、パニックの回数が減ってきた。日中の不安感が減った。エビリファイは動けるようになるのが良いです。あれを服用すると、少し楽になる感じがある。リフレックスを3錠飲んでいた頃は焦燥感があったが、今はないという。家事も少しできるようになった。ロヒプノール増量。このタイプの人は経験的にロヒプノールが良い。
ロヒプノール 4mg↑
(他変更なし)
35日目
パニックが全くなくなった。エビリファイを飲むとさっと楽になる感じです。少し落ち込むことも減っている。
42日目
最近は良く眠れている。眠れるだけで全然違います。朝がきちんと起きられるようになった。顔色も焦燥感が減ってゆったりしてみえる。約1ヶ月半で急激に改善している。痛みは減っているが手首を中心に疼痛は残っている。リリカを併用してみる。75mgから開始。
アンプリット 100mg
リボトリール 2mg
エビリファイ液 6cc
ルジオミール 25mg
ブロバリン 0.4
イソミタール 0.2
ロヒプノール 4mg
ユーロジン 2mg
リリカ 75mg↑
約2ヶ月
エビリファイを飲む前はいろいろ考え込むことが多かったが、今はあまり考えなくなったですね。落ち込むのもずいぶんと減った。飲んでいる薬で副作用はあまり感じない。痛みにリリカが効いている。トピナを25mgだけ追加してみる。
トピナ 25mg追加
(他変更なし)
2ヶ月半
トピナは良くなかったらしい。すぐに中止。気分が悪くなったり立ちくらみがあったりした。今は痛みが全くなくなっているという。眠りは良い。体重は全然増えない(彼女はどちらかというと痩せ型)。日中の眠気はないです。
3ヶ月目
先週は少し落ち込む日もあったが、今日は楽。
痛みが全く出ていない。先週は1週間ほど食欲がなく、また友人の悩みを聴いて相談に乗ってあげたら調子を崩した。
最近は夜は眠れるし、昼もずっと起きていられる。パニックがめったにないがたまにある。リリカを飲み始めて、体がスムーズに動かせるようになり部屋を片付けられるようになった。今は家の中はすごく綺麗です。(2人で笑う)。エビリファイを液剤から錠剤へ。(1日3mlを2本から3mg2錠へ)
参考
日本では線維筋痛症に対し抗精神病薬に限れば5剤しか推奨されていない。それは、コントミン、レボトミン、ジプレキサ、セロクエルに加え、ドグマチールである。
コントミン(エビデンスⅡb 推奨度B 日本はC)
レボトミン(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
ジプレキサ(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
セロクエル(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
ドグマチール(日本のみ エビデンスⅤ、推奨度C)
彼女には初診時からエビリファイを処方している。エビリファイはあまり研究がないが、少量では抗うつ作用を持ち、疼痛に多少は効いておかしくない。
しかし、疼痛には主に抗うつ剤や抗てんかん薬(リリカなど)を使う予定だったので、たぶん違う目的で処方したと思われる。(第一感で処方したのだが、なぜ処方したのか思い出せない)。
上の経過をみると、彼女は「以前より体が動くようになった」などエビリファイに好印象を持っている。これは色々な考え方があるが、弱いカタトニア様症状にエビリファイが効いたのかもしれない。最初、エビリファイ錠ではなく液剤を使ったのは、不眠が強いため多少は鎮静的に作用させようと考えたこともあったと思う。
また別の見方をすると、線維筋痛症はADHDと関係が深いと言われており、軽いタイプの抗精神病薬のエビリファイが良かったという解釈もできる。
彼女は第一印象は、セロクエルかエビリファイといった感じだった。たぶん、睡眠にはイソミタールまで使うつもりだったので、賦活目的でエビリファイを処方したような気もする。エビリファイは彼女の生活の質を改善している。
最近、パニックが多い。※
治療初期にかえって発作が増えた経過は非常に興味深い。元々古いタイプの抗うつ剤では、アナフラニールやアンプリットはパニックに相性が良く治療的である。一方、トリプタノールは疼痛には良いが、パニックに有効とまでは言えず、副作用の関係から、最初から処方するには重過ぎる。そのような感覚からアンプリットを使ったものと思う。(アンプリットの方が忍容性が高く、最初に使うには適しているという意味)
このブログ的には、パニックは器質性所見であり、過去ログでは「てんかんを治療する感覚で進めると良い方向に行く」などと記載している。
旧来の抗てんかん薬からイーケプラなどの新規抗てんかん薬に切り替えると、当初、発作回数がむしろ増えることがある。しかし効いている場合、その発作の内容が改善する。
つまり発作のスケールが小さくなる。例えば、発作があると1日中頭が痛いとか、ほとんど動けないほどの身体的ダメージがあった人が、発作が起こっても頭痛がないとか、発作による日常生活への影響が小さくなると言う。このような人は、発作が増えたとしても新規抗てんかん薬を歓迎する。そのうち、次第に発作回数が減少するのである。(この際に組み合わせる旧来の抗てんかん薬の選択も重要)。
彼女のパニックの改善のパターンは、新規抗てんかん薬のてんかんの治療経過に少し似ている。
また、この「パニックがいったん増えたこと」は別の解釈も可能である。例えば、ブプロピオンは不安に効果が乏しく、パニック発作をかえって増やすこと稀ではない。エビリファイは少量ではドパミンレセプターにアゴニスト的に働くため、かえってパニックを悪化させてもおかしくない。しかし次第に改善している経過を見ると、この考え方はやや弱い。
また、リフレックスの離脱のためパニックが増加したという考え方もできるが、これも同時にアンプリットなどを結構増やしているので考えにくいと思う。
その後、疼痛に対しリリカを追加している。
線維筋痛症の疼痛に対し、強力に効く薬が5剤ある。それは、リリカ、サインバルタ、トレドミン、トリプタノール、トラムセットである。この5剤は利点も欠点もあるので、その患者さんの状況に合わせて選ぶが、副作用を考慮し、どれも使わず他の薬を使うことも可能。
リリカ(エビデンスⅠ 推奨度A)
サインバルタ(エビデンスⅠ 推奨度A)
トレドミン(エビデンスⅠ 推奨度A)
トリプタノール(エビデンスⅠ 推奨度A)
トラムセット(以下参照)
上記は海外の評価であり、日本では正式に線維筋痛症の適応を持つ薬物はないため、推奨度Aの薬物はなく、Bが最高である。なお、トレドミンのみ日本でのエビデンスはⅡaである。
アメリカFDAはサインバルタ、トレドミン、リリカの線維筋痛症への処方を認めているが、ヨーロッパでは申請が却下されたという。その理由は、副作用の問題や短期成績があまり良くない上に、長期成績が示されていないため。
トラムセットはアセトアミノフェンとトラマドールの合剤である。トラマドールは癌の疼痛に使われるオピオイドで、これがかなり薄められてトラムセットに含まれている。トラマドールは弱オピオイドで日本では癌性疼痛などに適応があり、麻薬の指定を受けていない。トラマドール(商品名はトラマール)のエビデンスはⅡa、推奨度はBである(日本でもB)。トラマドールの力価はモルヒネの5分の1である。(参考)
トラムセットの本邦の適応
非オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
①非がん性慢性疼痛
②抜歯後の疼痛
上記の経過中、トピナをいったん使ってすぐに中止している。トピナやラミクタールは一般に疼痛に対し有効なことが知られている。ただ、精神症状の悪化を来たしやすいトピナに比べ、ラミクタールはうつに有効なので、このタイプの患者さんには使いやすい。
彼女の場合、むしろトピナの方が処方しやすかったのでまず試みている。その理由だが、既にかなりの量の抗うつ剤を使っていることと、線維筋痛症の発病の経緯を考慮している(他の記事で触れる予定)。
過去にリエゾンで、慢性疼痛に対しサインバルタ、リリカ、モルヒネよりラミクタールの方がはるかに効いた人が数人いる。
このような薬物はまず使ってみないとわからないと思う。なお、線維筋痛症ではラミクタール、トピナは治療薬として推奨されていない。
(続く)
初診2週間
ブロバリンとイソミタールでだいぶん眠れるようになった。眠れるので少し楽です。今はドーンと落ち込まない。今は4時間は眠れている。少しパニックは増えているような気がする。しかし、前の病院の時よりずっと良いです。エビリファイは気分がスキッとする感じがありますね。
アンプリットを増量する。2週間でイソミタールを追加し、かなり整理できた。リフレックスは彼女にとって効果が乏しく意味がないので中止する。
アンプリット 75mg↑
リボトリール 1mg
エビリファイ液 6cc
ルジオミール 25mg
ブロバリン 0.4
イソミタール 0.2
ロヒプノール 2mg
ユーロジン 2mg
3週間目
最近、パニックが多い。※
頭が混乱します。エビリファイ液のせいか日中の落ち込みが減ってきた。
アンプリットとリボトリールを増量する。1週間ごとの通院を希望。転院以降、調子が良いという。
アンプリット 100mg↑
リボトリール 2mg↑
(他変更なし)
1ヶ月
まだあまり眠れない日もある。気分の落ち込みはありますね。しかし、パニックの回数が減ってきた。日中の不安感が減った。エビリファイは動けるようになるのが良いです。あれを服用すると、少し楽になる感じがある。リフレックスを3錠飲んでいた頃は焦燥感があったが、今はないという。家事も少しできるようになった。ロヒプノール増量。このタイプの人は経験的にロヒプノールが良い。
ロヒプノール 4mg↑
(他変更なし)
35日目
パニックが全くなくなった。エビリファイを飲むとさっと楽になる感じです。少し落ち込むことも減っている。
42日目
最近は良く眠れている。眠れるだけで全然違います。朝がきちんと起きられるようになった。顔色も焦燥感が減ってゆったりしてみえる。約1ヶ月半で急激に改善している。痛みは減っているが手首を中心に疼痛は残っている。リリカを併用してみる。75mgから開始。
アンプリット 100mg
リボトリール 2mg
エビリファイ液 6cc
ルジオミール 25mg
ブロバリン 0.4
イソミタール 0.2
ロヒプノール 4mg
ユーロジン 2mg
リリカ 75mg↑
約2ヶ月
エビリファイを飲む前はいろいろ考え込むことが多かったが、今はあまり考えなくなったですね。落ち込むのもずいぶんと減った。飲んでいる薬で副作用はあまり感じない。痛みにリリカが効いている。トピナを25mgだけ追加してみる。
トピナ 25mg追加
(他変更なし)
2ヶ月半
トピナは良くなかったらしい。すぐに中止。気分が悪くなったり立ちくらみがあったりした。今は痛みが全くなくなっているという。眠りは良い。体重は全然増えない(彼女はどちらかというと痩せ型)。日中の眠気はないです。
3ヶ月目
先週は少し落ち込む日もあったが、今日は楽。
痛みが全く出ていない。先週は1週間ほど食欲がなく、また友人の悩みを聴いて相談に乗ってあげたら調子を崩した。
最近は夜は眠れるし、昼もずっと起きていられる。パニックがめったにないがたまにある。リリカを飲み始めて、体がスムーズに動かせるようになり部屋を片付けられるようになった。今は家の中はすごく綺麗です。(2人で笑う)。エビリファイを液剤から錠剤へ。(1日3mlを2本から3mg2錠へ)
参考
日本では線維筋痛症に対し抗精神病薬に限れば5剤しか推奨されていない。それは、コントミン、レボトミン、ジプレキサ、セロクエルに加え、ドグマチールである。
コントミン(エビデンスⅡb 推奨度B 日本はC)
レボトミン(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
ジプレキサ(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
セロクエル(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
ドグマチール(日本のみ エビデンスⅤ、推奨度C)
彼女には初診時からエビリファイを処方している。エビリファイはあまり研究がないが、少量では抗うつ作用を持ち、疼痛に多少は効いておかしくない。
しかし、疼痛には主に抗うつ剤や抗てんかん薬(リリカなど)を使う予定だったので、たぶん違う目的で処方したと思われる。(第一感で処方したのだが、なぜ処方したのか思い出せない)。
上の経過をみると、彼女は「以前より体が動くようになった」などエビリファイに好印象を持っている。これは色々な考え方があるが、弱いカタトニア様症状にエビリファイが効いたのかもしれない。最初、エビリファイ錠ではなく液剤を使ったのは、不眠が強いため多少は鎮静的に作用させようと考えたこともあったと思う。
また別の見方をすると、線維筋痛症はADHDと関係が深いと言われており、軽いタイプの抗精神病薬のエビリファイが良かったという解釈もできる。
彼女は第一印象は、セロクエルかエビリファイといった感じだった。たぶん、睡眠にはイソミタールまで使うつもりだったので、賦活目的でエビリファイを処方したような気もする。エビリファイは彼女の生活の質を改善している。
最近、パニックが多い。※
治療初期にかえって発作が増えた経過は非常に興味深い。元々古いタイプの抗うつ剤では、アナフラニールやアンプリットはパニックに相性が良く治療的である。一方、トリプタノールは疼痛には良いが、パニックに有効とまでは言えず、副作用の関係から、最初から処方するには重過ぎる。そのような感覚からアンプリットを使ったものと思う。(アンプリットの方が忍容性が高く、最初に使うには適しているという意味)
このブログ的には、パニックは器質性所見であり、過去ログでは「てんかんを治療する感覚で進めると良い方向に行く」などと記載している。
旧来の抗てんかん薬からイーケプラなどの新規抗てんかん薬に切り替えると、当初、発作回数がむしろ増えることがある。しかし効いている場合、その発作の内容が改善する。
つまり発作のスケールが小さくなる。例えば、発作があると1日中頭が痛いとか、ほとんど動けないほどの身体的ダメージがあった人が、発作が起こっても頭痛がないとか、発作による日常生活への影響が小さくなると言う。このような人は、発作が増えたとしても新規抗てんかん薬を歓迎する。そのうち、次第に発作回数が減少するのである。(この際に組み合わせる旧来の抗てんかん薬の選択も重要)。
彼女のパニックの改善のパターンは、新規抗てんかん薬のてんかんの治療経過に少し似ている。
また、この「パニックがいったん増えたこと」は別の解釈も可能である。例えば、ブプロピオンは不安に効果が乏しく、パニック発作をかえって増やすこと稀ではない。エビリファイは少量ではドパミンレセプターにアゴニスト的に働くため、かえってパニックを悪化させてもおかしくない。しかし次第に改善している経過を見ると、この考え方はやや弱い。
また、リフレックスの離脱のためパニックが増加したという考え方もできるが、これも同時にアンプリットなどを結構増やしているので考えにくいと思う。
その後、疼痛に対しリリカを追加している。
線維筋痛症の疼痛に対し、強力に効く薬が5剤ある。それは、リリカ、サインバルタ、トレドミン、トリプタノール、トラムセットである。この5剤は利点も欠点もあるので、その患者さんの状況に合わせて選ぶが、副作用を考慮し、どれも使わず他の薬を使うことも可能。
リリカ(エビデンスⅠ 推奨度A)
サインバルタ(エビデンスⅠ 推奨度A)
トレドミン(エビデンスⅠ 推奨度A)
トリプタノール(エビデンスⅠ 推奨度A)
トラムセット(以下参照)
上記は海外の評価であり、日本では正式に線維筋痛症の適応を持つ薬物はないため、推奨度Aの薬物はなく、Bが最高である。なお、トレドミンのみ日本でのエビデンスはⅡaである。
アメリカFDAはサインバルタ、トレドミン、リリカの線維筋痛症への処方を認めているが、ヨーロッパでは申請が却下されたという。その理由は、副作用の問題や短期成績があまり良くない上に、長期成績が示されていないため。
トラムセットはアセトアミノフェンとトラマドールの合剤である。トラマドールは癌の疼痛に使われるオピオイドで、これがかなり薄められてトラムセットに含まれている。トラマドールは弱オピオイドで日本では癌性疼痛などに適応があり、麻薬の指定を受けていない。トラマドール(商品名はトラマール)のエビデンスはⅡa、推奨度はBである(日本でもB)。トラマドールの力価はモルヒネの5分の1である。(参考)
トラムセットの本邦の適応
非オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
①非がん性慢性疼痛
②抜歯後の疼痛
上記の経過中、トピナをいったん使ってすぐに中止している。トピナやラミクタールは一般に疼痛に対し有効なことが知られている。ただ、精神症状の悪化を来たしやすいトピナに比べ、ラミクタールはうつに有効なので、このタイプの患者さんには使いやすい。
彼女の場合、むしろトピナの方が処方しやすかったのでまず試みている。その理由だが、既にかなりの量の抗うつ剤を使っていることと、線維筋痛症の発病の経緯を考慮している(他の記事で触れる予定)。
過去にリエゾンで、慢性疼痛に対しサインバルタ、リリカ、モルヒネよりラミクタールの方がはるかに効いた人が数人いる。
このような薬物はまず使ってみないとわからないと思う。なお、線維筋痛症ではラミクタール、トピナは治療薬として推奨されていない。
(続く)