精神が死んでいた | kyupinの日記 気が向けば更新

精神が死んでいた

彼女は偶然、うちの病院の近所に引っ越してきた。元々かなり遠方で治療されていた人で診断は統合失調症である。

初めて診た時、極めて空虚で周囲のものは一切受付けないような印象であった。陰性症状が前景にあり、陽性症状もあるのであろうが、霞んでしまうほどである。

陰性症状が重い統合失調症の人は、精神が死んでいるように見える。

彼女の処方はドグマチール300mg単剤。これだけ処方し、この結果では、あまりにも無策と思った。別にドグマチールという薬が悪いと言っているのではない。

彼女は初診は僕が診たが、その後、不定期に通院していたため、ある時、うちの病院の他の医師により、リスパダール1mgが追加されたようである。そのため、

ドグマチール 300mg
リスパダール  1mg


という処方になった。彼女に、何かしら非定型抗精神病薬を追加したくなる気持ちはわかる。

ある時、このままでは今の状況から脱出することは難しいと思ったので、根本的に処方を変更することにした。そこで、ドグマチールとリスパダールを漸減し、できればルーランと抗てんかん薬で治療することにしたのである。(長くなるのでその後の紆余曲折は省略)

その結果、
レンドルミン 0.25mg 
ルーラン   1mg
リボトリール 0.5mg
トピナ    25mg


という奇妙な多剤少量の併用治療に落ち着いた。この変更は全て外来で行っている。

このうちルーラン1mgはキモである。ルーランは最初2~4mg投与し、その後1mgとしている。ルーランにより彼女の表情が明るくなり、情緒が出るようになった。また頭の中にいつも靄がかかっていたのが晴れてきたという。元々、ドグマチールだけでは睡眠薬は必要なかったが、彼女の場合、賦活すると不眠になる。そこで何らかの睡眠薬が必要になりレンドルミンを追加している。(ラミクタールなどでも、処方開始後、全般が改善しているのに、賦活のためか不眠傾向になるのは時々見られる)

彼女は次第に働けるようになり、現在はパソコンのソフトを扱う仕事と、営業もしていると言う。あまりお金にはならないらしいが。

彼女は初診時はそのように見えなかったが、かつてはIT関係の仕事に就いていたと言う。何がどうなってあのような状態で初診したのか想像もつかない。統合失調症の場合、特に彼女のように若い人では、一見不可逆性に見える精神状態でも回復力は意外に大きい。

トピナは彼女には賦活的に働くようである。ラミクタールは中毒疹以外の原因で合わずにやめているが、どのような理由だったか忘れてしまった。

ラミクタールが合わなくても、トピナで賦活できる人は幸せである。

過去ログでは統合失調症薬物療法を立体的にとらえ、XYZ軸に属する薬物群を工夫することで、寛解のレベルを上げる私案をアップしている。以下、再掲。(参考

統合失調症の薬物療法は、おそらく立体的になっており、X軸には抗精神病作用を持つ薬が位置する。そしてY軸はたぶん躁うつ病の薬が位置するのであろう(特にリーマス、デパケンR、テグレトールなどの古典的気分安定化薬)。

Z軸はいわば虚数の世界であり、この軸の薬が意外に重要である。広汎性発達障害などの治療はY軸とZ軸の治療を主体に考えた方がうまくいく。広汎性発達障害では、X軸の薬は副作用が出やすいが、自由度の高い薬だと良い場合もある。過去ログではシンプルな薬、ルーラン、エビリファイ、ロナセンはわりあい良いのではないかと言った私見を書いている。

Z軸に相当する薬は薬理作用が良くわからない薬物群である。過去ログでは、たぶんラミクタール、トピナ、春ウコン、エゾウコギ、バッチフラワーなどが入ると思うが、実はこれら以外にも有望な薬がいくつかある。ただし、まだアップしていないのでここでは触れない。

たぶん、統合失調症や広汎性発達障害では最終的にZ軸に作用する極端にエクセレントな薬物が出現し、寛解させる薬物療法が革命的にアップするような気がしている。(中略)

最初にX軸の薬に何を選ぶかが重要だし、YとZ軸の薬を併用して、抗精神病薬の量をセーブすることが望ましい。


抗精神病薬では受容体占有率という概念があり、この薬では「何mg以上処方しないと薬理効果が出ない」などと言われている。これは薄っぺらの一次元的な話であり、このようなステレオタイプの薬物療法では、個人差もあいまって、うまくいかない人たちが続出する。

だいたい、今回の患者さんのようにルーラン1mgで十分な人の説明がつかない(過去ログにもルーランに限らず、そのような人たちが多数出現している)。

精神科だけに限らないのだろうが、薬物療法にはまだわかっていないことが多いのである。これは、統合失調症や広汎性発達障害は、全てが一様ではなく、たぶん症候群を形成していることも関係がある。

参考
トピナのテーマ
薬物治療と寛解のレベルについて