統合失調症とトピナ | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症とトピナ

今回の記事は、最初に一通りトピナ、ラミクタールのテーマを読まないとわかりにくいのではないかと思う。このエントリの真意もよくわからないかもしれない。

まず最初に、トピナは新しいタイプの抗てんかん薬であり、主剤となる抗てんかん薬に併用して投与される。単剤では投与できない。


しかし、副作用として食思不振、体重減少がみられるため、過食症などの精神症状や、薬物による体重増加の治療のために海外では処方されているようである。おそらくだが、日本国内でも適応外で処方されていると思う。

ラミクタール、トピナはこのアメブロメールでも、

なぜてんかんの薬なのに自分に処方されたのでしょうか?

といった風に、けっこう相談が来ていた。一連のエントリで解説したこともあり、このタイプの質問が激減した。最近は用量についての相談が多い。

あの2つのテーマのエントリはこれらの質問に1つ1つ同じような返信をするのが面倒だったのでアップした面も少しある。これらを見ても、日本国内でも前衛的な精神科医は既にラミクタール、トピナを治療に用いているのである。

精神科の薬物療法の進歩は、適応外処方の歴史の上に成立している。


ここ10年でもデパケン(バルプロ酸ナトリウム)は双極性障害に非常に有効なことがわかっており、また論文的にもその証拠があったが、日本ではバルプロ酸ナトリウムになかなか双極性障害の適応が付かなかった。だから精神科医は双極性障害でリーマスに反応が乏しい人たちにデパケンRを適応外処方していたのである。

精神科雑誌を見ても、

○○型認知症にエビリファイが奏功した○○例などと堂々と出ている。

またセロクエルやジプレキサなどの適応外処方の症例報告も同様である。しかも、病院名と発表者の名前まで明らかにされているのである。

つまり、精神科では適応外処方の延長上に薬物治療の進歩、発展があったといっても良い。これらの薬物療法に今までは難しかった疾患の寛解・治癒の地平が広がっているのである。

ここでやっとタイトルに戻るが、元々、最初にトピナ処方を考慮したのは統合失調症の人たちであった。

ただ、僕のかつてのオーベン(指導医)との話では、「あまりうまくいかない」、という不景気な話であった。この確率の低さから、統合失調症の人たちには、最初から使わない方が良いのではないかと思っていた時期もある。

トピナはしばしば統合失調症の人の幻覚妄想を悪化させたり、あるいは病状を不安定にさせる。しかし、全く問題が生じない人もいることはいる。

例えば、幻聴がしばしば生じており、普通の抗精神病薬ではコントロールが難しい人にトピナが合った場合、その患者さんはこのようなことを言う。

幻聴に対してもドンと構えていることができるようになった。幻聴に圧倒されなくなりました。

つまり、幻聴が生じた際の混乱が緩和し、幻聴に惑わされて自殺未遂をしたり、家族に文句を行ったりするようなことが減少するのである。実はこの

精神症状を、少し横に置いておける。右から左に受け流せる。

という異常体験に対し距離が取れる構えの変化は、広汎性発達障害や双極性障害の人の混乱の緩和と同じような改善である。その作用点は非常に近いように思われる。

しかも、この感覚の微妙な変化は、統合失調症の人の寛解に1歩近づいている。

統合失調症の人の幻聴は自我異和的ではないから、大きな問題なのである。(だから、幻聴に幻惑されて、駅前で突然裸になったり、土下座するといったことが起こる)。だから、この幻聴にドン構えられると言うのは大変な改善と言えるであろう。

このトピナのストレス耐性を上げる向精神作用を考慮すると、いくつかの論文の結果をよく理解することができる。

FDAはてんかん薬全般に自殺行動(未遂と既遂)のリスクについて警告している。

これはいろいろな考え方があろうが、1つはこれらの気分安定化作用を持つ抗てんかん薬はいったん精神症状を攪拌し、少し不安定にする面がある事が関係しているように思われる。その理由の1つは、これらの自殺行動のリスク上昇は、処方後30日以内に生ずることが多いらしいからである。

また、ラミクタールなどは、アメリカではしばしば双極性障害に処方され、対象がてんかんの人たちだけではない。これらの双極性障害の人に抗うつ作用をもたらせば、少なくともべったりうつ状態が続いている時期よりは、決断力が出て不安定な時期に自殺のリスクは高まっておかしくはない。(過去ログにも双極2型の人は自殺のリスクが高いと記載している。)このメカニズムは抗うつ剤の賦活と同様である。

この研究では13種類の抗てんかん薬について検討され、5つの薬物が誤差範囲を超えて高かったとされているが、著しく上昇しているわけではないし、前に書いたとおり、処方対象者に潜在的なリスクがある人がかなり入っているため、確実なリスク上昇の証拠とまではいえないと思う。

自殺行動のリスクはトピナを基準にすると、

ガバペン    1.42倍
ラミクタール  1.84倍
オキシカルバゼピン 2.07倍(本邦未発売)
チアガビン     2.41倍(本邦未発売)
デパケンR     1.65倍  


ほど高いとされている。この5剤以外は統計的にはリスクは高いとまでは言えなかったものと思われる。

トピナは過食症、アルコール依存症、戦争帰還兵の外傷体験などにも処方されていると思われるので、潜在的にリスクが高い人々にも処方されていると想像される。しかし、トピナは上記5剤に比べ少なくともリスクが低かったのである。これは、トピナの持つ向精神作用だからこそだと今では思える。

先ほど挙げたトピナが「幻聴に対してもドンと構えていることができるようになった。幻聴に圧倒されなくなりました」という、精神面の混乱を緩和しているためであろう。

実は、トピナの処方感覚(患者さんの症状変化の観察)を得る前までは、ラミクタールやデパケンRに比べ、トピナの自殺行動のリスクが低いのは単に気分安定化薬ととしての作用が乏しいからではないかと思っていた。実は、そうではない。

トピナの精神症状の改善メカニズムには普遍性がある。

あのアメリカの論文は臨床経験にも一致し、十分に理解できる内容になっていると思う。

参考
トピナのテーマ
ラミクタールのテーマ
デパケンRのテーマ