貴方が来るのを待っていました
今回のエントリはちょっと変だけど、「パニック障害と広汎性発達障害のパニック」の続きである。(元々1つのエントリであった)
彼女を最初に診たのは、まだ彼女が13~14歳の頃だったと思う。なぜその年齢でうちの病院にやってきたのか、よく憶えていない(昔のカルテを調べるとわかるのだが・・)。
精神疾患といえばそうなのだが、いわゆる不良少女であり、家族も手が付けられない状態だった。こういう子供は一般には躾が悪いからそうなったと思いがちだが、躾でどうにかなる部分は非常に少ないと感じていた。(一般の感覚とは乖離している)
彼女は広く言えば神経症なのだが、ADHD的な部分もあるのである。しかしあのような子供をADHDとも言わないと思う。(個人的にだが・・)。
彼女は治療がほとんど続かず、継続して通院なり服薬などしたことがない。しかし、特に冬に悪化し、たまに入院になっていた。どんなに酷い状態でも短期間で体調が回復し、確か2週間以上、入院していたことなどなかった。そういうこともあり治療関係は良好で、母親も本人からも信頼を得ていた。ただ治療のモチベーションが低いのである。(家族にはどうすることもできない)
冬になるとうつ状態に至り動けなくなることがある。またパニック的な混乱(器質性)を呈するのである。最初の頃はリストカットも診られていた。
彼女は大人しく学校に行くタイプではないが、アルバイトは活発にしていた。友人との交流が広いのである。勉強はしないけど、ある意味、生活力があり本質的な頭は良いような感じだった。単に彼女は学校に向かないと思った。ところが冬になるとガクンと体調が落ち、病院にやってくる。
冬は生きているのが辛いんですケド・・
と言った感じである。ケドがカタカナなのはなんとなく話している雰囲気がそんな風だから。
自由にさせていたのもあり、それほど決定的に悪くもならず、高校を卒業する年頃になると(高校に行っていないわけで)、ラウンジ、キャバクラとかそういうタイプの仕事に就くようになった。それでも、冬になるとやってくる。たまに、冬眠しているうちに自然回復し病院に来ない年もある(冬眠とは本人の言葉。森の小動物系である)。
彼女は退院したら最後、しばらく通院しないので薬がアテにならない。だから長期にどうするといった方針も立たなかった。見守っていたといった感じである。もっと若い頃は、補導されるのを心配していた。(今も若いんだけど)
当時の薬物療法は少し奇妙なものだったと思う。続かないので工夫したところでその甲斐がないが、劇的に改善と言うほどでもなかった。少なくとも、彼女には薬によって大幅に良くなったという実感はそこまで大きくなかったような気がする。彼女が早く良くなるのはバイオリズムや入院や自宅療養による休養が大きい。彼女のようなタイプは走り続け、ある時バッタリ倒れる。そんな風だったのである。
当時の処方
ルーラン 12㎎
デパケンR 200㎎
ベゲタミンB 1T
不安時、たまにレキソタン、ワイパックスを服用。
この処方はいくつかの点で良いところがある。それは、SSRIが入っていないこと。まだ適切と思われるルーランや気分安定化薬のデパケンRが入っていること。眠剤も含めベンゾジアゼピンを最低限に抑えていること。この処方内容は当時の彼女の精神所見からすれば軽いものである。エピソード的なうつ状態でも継続して抗うつ剤は使っていない。またこの処方は急に止めても離脱が生じにくい(つまり止めやすい処方)。薬物により症状を混乱させ、ボーダーラインのような病態になりにくい処方になっている。彼女は当時、リストカットもなかった。
ある日、退院する時になぜそんなに早く帰るのか聞いてみた(精神科医がこんなことを聞くのも変は変だけど)
私はお店のエースなので長く休めない。休ませて貰えない。
なんていう。確かに綺麗な子なので、そういうこともあると思ったが、責任感が強いといえばそうである。こういう風に見ると、大学生で学校には行かないが、アルバイトには休まずに行きやがて放校になるアパシーシンドロームの学生に似ている。
当時、家族には、何か妙な症状が出てきて決定的に悪くならない限り、そこそこ年齢が行けば健康になりますよ、と話していた。その症状も出てくる可能性の方がずっと低いと伝えた。これは別に楽観を装っていたわけではなく、本当にそう思っていたからである。こういう流れで、統合失調症に移行するはずはない。ずいぶん若い年齢で症状が出ているので双極性障害も移行しにくいと思われた。つまり内因性疾患から遠い場所にいる。(家族、本人いずれにも何も告知はしていない)
そのうちトピナとラミクタールが発売され、彼女に可能性があると思われる薬が揃ってきた(トピナは2007年9月発売。ラミクタールは2008年12月発売)。それ以降、僕のこれらの処方経験も増え、効果の感覚も得られてきていた。広汎性発達障害系の人はやはり薬物治療が極めて重要である。
広汎性発達障害に対する薬物治療は軽視されすぎていると思う。
なぜ広汎性発達障害の人に薬物治療が重要なのかと言うと、慢性的な不機嫌や厭世観、希死念慮、リテラシーの問題などが、ある程度薬物の手を借りて改善して来ないと、これからの話ができないからである。過去ログで、リテラシーが大問題というエントリをアップしているが、これを当事者が悪意に取るのは精神状態が悪いからであり、つまりは本人から見える範囲、ライトアップされている部分しか見えていないことを示している。あのような記事は、家族や支援の人がどのように彼らに接すれば良いかとか、注意点が良くわかるような内容になっている。また、家族も支援の人や教師とうまくやっていくことは、周囲の人が全て同じ方向を向くことができると言う点で非常に重要である。今の広汎性発達障害の人たちの周囲の状況は、あまりにもまとまりがなく、迷走していると言っても良いほどである。このブログの広汎性発達障害系のエントリは、いつもそういう点も留意して書き綴っている。なんだかんだ言って、このブログは軽微な器質性疾患~広汎性発達障害、あるいはその診断未満の人たちの読者が多いと言うのもある。(参考)
さて、精神科医は時間が経ち、あの患者さんはひょっとしたら、あんな風にしたら上手くいったのでは?と思うことがある(参考)。もしその患者さんが再び訪れたら、あのように治療をしてみようなどと思うものなのである。
そうしてある冬の日、彼女は再び訪れた。
貴方が来るのを待っていました。
と言ったところである。(本人には直接には言っていないが)
最初どの薬を使うとか決めていはいなかった。今回の彼女の訴えは、以前とはちょっと違っていたのである。今回は、「とにかく過食で困っている」、体重がずっと増えて今は60kg以上あると言う。以前に比べると10kg以上増加していた。もしこのような訴えではなかったなら、トピナを勧めていなかったかもしれない。
軽微な器質性および広汎性発達障害の過食に有効な薬物(いずれも正式な適応はない)
トピナ
ラミクタール*1
ブプロピオン*1
リタリンなどの交感神経作用薬*2
SSRI*3
エクセグラン*4
エビリファイ*5
*1は過食に対し有効と言うより、悪化させないといった穏和な効果を持つ。人によると過食に効果的である。
*2は適応が狭く処方が制限されているもの。
*3パキシル以外のSSRIは過食に対し抑制的であるが、衝動、焦燥感などを来たし、希死念慮やリストカットなどを悪化させ、他の症状を改善せず実用にならないケースも多い。プロザックは海外では過食症に処方されている国もある。日本でも、SSRIでほとんど食欲が失せる人もいるが、実はこれは副作用である。
*4エクセグランは日本では「てんかん」にしか適応がないが、海外では躁状態の代替療法として、あるいは薬物による体重増加に対する減量を目的として処方されることがある。またパーキンソン病にも有効と言うエビデンスもあり、日本でも「トレリーフ」という商品名で発売されている。従って、パーキンソン病にはトレリーフは処方可能だが、エクセグランは適応外処方ができないという制約がある(添付文書に実際にそう書かれている)。桁違いの薬価差があるからであろう(つまり治験費が膨大にかかっており、それを回収する感じ。安価なエクセグランが適応外処方されると、トレリーフなど全く売れないという事態になる。処方制限はやむを得ない)。エクセグランはナトリウムチャンネルを遮断しドパミンとセロトニン活性を高めるらしい。有害作用として、腎結石、ごく稀に致死的な中毒疹がみられる。その他、眠気、運動失調、知覚異常、下痢、悪心など一般的な抗てんかん薬に良く見られる副作用がある。体重減少は頻度の高い有害作用である(これが過食に有効)。
*5過食にはさほど強い効果はないが、エビリファイを服用していると広汎性発達障害的な衝動が減少し、その流れで過食が減少する人がいる。もちろん効果的とまでは言えない人もいる(それどころか、過食になる人もいるほど)。
結局、彼女と話し合い、デパケンRとトピナを主力に治療をすることにした。当初、トピナは50㎎錠1錠、デパケンR200㎎1錠から始め、次第に増量する予定であった。トピナは単独投与できないが、彼女にはデパケンRは情緒を穏やかにさせるので一緒に服薬せざるをえないのはかえって好都合である。トピナは精神症状を悪化させることも多く、適切なケースの確率がやや低い薬物である。的中率が低くても合っている人に非常に効果的であれば、それは優れた薬である。彼女には、
悪いと思ったら、すぐに止めること。過食に効いていても、爆発的に怒るとか、不機嫌などが出てきたら、我慢せずに止めるように。他にも良さそうな薬があるので、そちらに変更すれば良い、と伝えていた。具体的に対応の仕方を伝えておかないと、本人の精神症状を悪化させては無意味である。
トピナ 50㎎
デパケンR 200㎎
ベゲタミンB 1T
レンドルミン 0.25㎎
最初の2週間で、既に2kgほど体重が減少していた。本人は大喜びである。たった50㎎でも過食に効果があったらしい。こういう感じだと、服用を続ければ、次第に体重が元に戻っていくような感じであった。仕事は毎日行っているらしい。ベゲタミンの中にはコントミンがあり、これは過食を来たしうるが、この程度の量だと問題にならないことが多い。だいたいデパケンRも過食にマイナスになる薬物であるが、もしこういう組み合わせでデパケンRが悪い場合は、仕方なくリボトリールを処方していたと思う。
その後、朝からの食欲を減らすためと、本人の冬の「動けなくなること」を改善するため、エビリファイ液を併用することにした。そしてこのような処方になった。
トピナ 150㎎
デパケンR 200㎎
エビリファイ 3cc
ベゲタミンB 1T
レンドルミン 0.25㎎
この処方はちょっとまとまりがないように見えるかもしれないが、僕から見るとシンプルで美しい。どれといって無駄なものがなく調和しているからである。この感覚は、数学や物理学の数式に通じるものがある。
ある時、彼女の普段の様子を家族に聞いてみたことがある。家族によれば、服薬しているとしないでは全然違うと言う。何かあった時に、悲しみ方が違う。ギャーと大声を出さない。以前のようなパニックが全然ないらしい(このパニックは器質性の緊張病症候群)。
仕事には毎日行くし、前よりずっと明るくなっていると言う。以前は調子が悪い時は、周囲の人の話が気に障り、いつも怒っていたような時期もあったらしい。彼女はトピナ処方以後、生まれて初めて半年以上、服薬が続いているのであった。
トピナを使い始めて、数ヶ月で64kgが53kgになった。
こういう子の長期予後だが、たぶん完治するような気がしている。こういうタイプの子供は、昔はなんとなく年齢がいけば問題にならなくなっていたような気がする。戦前の昭和の時代や明治時代の頃のことである。今回の彼女は、もし大学に行っていたら、まだ卒業していないほどの若さなのである。
最近、話していて思うのだが、以前に比べ、ずっとおしとやかになっている。つまりより女性的になった。広汎性発達障害的あるいは診断未満の人は、見かけは女性的で美しくても中の人が男っぽかったりする。これは疾患性である。また、人の話を素直に聞くようになっている。昔は「活発なイケイケギャル」だった。最近はそんな風ではないのである。
今回のエントリは、精神科は患者さんにとって診断名など何だって良く、生活しやすくなればそれで十分なことを良く表している。
参考
パニック障害と広汎性発達障害のパニック
トピナは精神療法をするのか?
広汎性発達障害はしばしば双極性障害に振舞う
アスペルガーと正常の間の人々
このブログは難しい事が書かれておらず、わかりやすいらしい
器質性うつ状態と広汎性発達障害
児童・思春期の患者さん
統合失調症は減少しているのか?
彼女を最初に診たのは、まだ彼女が13~14歳の頃だったと思う。なぜその年齢でうちの病院にやってきたのか、よく憶えていない(昔のカルテを調べるとわかるのだが・・)。
精神疾患といえばそうなのだが、いわゆる不良少女であり、家族も手が付けられない状態だった。こういう子供は一般には躾が悪いからそうなったと思いがちだが、躾でどうにかなる部分は非常に少ないと感じていた。(一般の感覚とは乖離している)
彼女は広く言えば神経症なのだが、ADHD的な部分もあるのである。しかしあのような子供をADHDとも言わないと思う。(個人的にだが・・)。
彼女は治療がほとんど続かず、継続して通院なり服薬などしたことがない。しかし、特に冬に悪化し、たまに入院になっていた。どんなに酷い状態でも短期間で体調が回復し、確か2週間以上、入院していたことなどなかった。そういうこともあり治療関係は良好で、母親も本人からも信頼を得ていた。ただ治療のモチベーションが低いのである。(家族にはどうすることもできない)
冬になるとうつ状態に至り動けなくなることがある。またパニック的な混乱(器質性)を呈するのである。最初の頃はリストカットも診られていた。
彼女は大人しく学校に行くタイプではないが、アルバイトは活発にしていた。友人との交流が広いのである。勉強はしないけど、ある意味、生活力があり本質的な頭は良いような感じだった。単に彼女は学校に向かないと思った。ところが冬になるとガクンと体調が落ち、病院にやってくる。
冬は生きているのが辛いんですケド・・
と言った感じである。ケドがカタカナなのはなんとなく話している雰囲気がそんな風だから。
自由にさせていたのもあり、それほど決定的に悪くもならず、高校を卒業する年頃になると(高校に行っていないわけで)、ラウンジ、キャバクラとかそういうタイプの仕事に就くようになった。それでも、冬になるとやってくる。たまに、冬眠しているうちに自然回復し病院に来ない年もある(冬眠とは本人の言葉。森の小動物系である)。
彼女は退院したら最後、しばらく通院しないので薬がアテにならない。だから長期にどうするといった方針も立たなかった。見守っていたといった感じである。もっと若い頃は、補導されるのを心配していた。(今も若いんだけど)
当時の薬物療法は少し奇妙なものだったと思う。続かないので工夫したところでその甲斐がないが、劇的に改善と言うほどでもなかった。少なくとも、彼女には薬によって大幅に良くなったという実感はそこまで大きくなかったような気がする。彼女が早く良くなるのはバイオリズムや入院や自宅療養による休養が大きい。彼女のようなタイプは走り続け、ある時バッタリ倒れる。そんな風だったのである。
当時の処方
ルーラン 12㎎
デパケンR 200㎎
ベゲタミンB 1T
不安時、たまにレキソタン、ワイパックスを服用。
この処方はいくつかの点で良いところがある。それは、SSRIが入っていないこと。まだ適切と思われるルーランや気分安定化薬のデパケンRが入っていること。眠剤も含めベンゾジアゼピンを最低限に抑えていること。この処方内容は当時の彼女の精神所見からすれば軽いものである。エピソード的なうつ状態でも継続して抗うつ剤は使っていない。またこの処方は急に止めても離脱が生じにくい(つまり止めやすい処方)。薬物により症状を混乱させ、ボーダーラインのような病態になりにくい処方になっている。彼女は当時、リストカットもなかった。
ある日、退院する時になぜそんなに早く帰るのか聞いてみた(精神科医がこんなことを聞くのも変は変だけど)
私はお店のエースなので長く休めない。休ませて貰えない。
なんていう。確かに綺麗な子なので、そういうこともあると思ったが、責任感が強いといえばそうである。こういう風に見ると、大学生で学校には行かないが、アルバイトには休まずに行きやがて放校になるアパシーシンドロームの学生に似ている。
当時、家族には、何か妙な症状が出てきて決定的に悪くならない限り、そこそこ年齢が行けば健康になりますよ、と話していた。その症状も出てくる可能性の方がずっと低いと伝えた。これは別に楽観を装っていたわけではなく、本当にそう思っていたからである。こういう流れで、統合失調症に移行するはずはない。ずいぶん若い年齢で症状が出ているので双極性障害も移行しにくいと思われた。つまり内因性疾患から遠い場所にいる。(家族、本人いずれにも何も告知はしていない)
そのうちトピナとラミクタールが発売され、彼女に可能性があると思われる薬が揃ってきた(トピナは2007年9月発売。ラミクタールは2008年12月発売)。それ以降、僕のこれらの処方経験も増え、効果の感覚も得られてきていた。広汎性発達障害系の人はやはり薬物治療が極めて重要である。
広汎性発達障害に対する薬物治療は軽視されすぎていると思う。
なぜ広汎性発達障害の人に薬物治療が重要なのかと言うと、慢性的な不機嫌や厭世観、希死念慮、リテラシーの問題などが、ある程度薬物の手を借りて改善して来ないと、これからの話ができないからである。過去ログで、リテラシーが大問題というエントリをアップしているが、これを当事者が悪意に取るのは精神状態が悪いからであり、つまりは本人から見える範囲、ライトアップされている部分しか見えていないことを示している。あのような記事は、家族や支援の人がどのように彼らに接すれば良いかとか、注意点が良くわかるような内容になっている。また、家族も支援の人や教師とうまくやっていくことは、周囲の人が全て同じ方向を向くことができると言う点で非常に重要である。今の広汎性発達障害の人たちの周囲の状況は、あまりにもまとまりがなく、迷走していると言っても良いほどである。このブログの広汎性発達障害系のエントリは、いつもそういう点も留意して書き綴っている。なんだかんだ言って、このブログは軽微な器質性疾患~広汎性発達障害、あるいはその診断未満の人たちの読者が多いと言うのもある。(参考)
さて、精神科医は時間が経ち、あの患者さんはひょっとしたら、あんな風にしたら上手くいったのでは?と思うことがある(参考)。もしその患者さんが再び訪れたら、あのように治療をしてみようなどと思うものなのである。
そうしてある冬の日、彼女は再び訪れた。
貴方が来るのを待っていました。
と言ったところである。(本人には直接には言っていないが)
最初どの薬を使うとか決めていはいなかった。今回の彼女の訴えは、以前とはちょっと違っていたのである。今回は、「とにかく過食で困っている」、体重がずっと増えて今は60kg以上あると言う。以前に比べると10kg以上増加していた。もしこのような訴えではなかったなら、トピナを勧めていなかったかもしれない。
軽微な器質性および広汎性発達障害の過食に有効な薬物(いずれも正式な適応はない)
トピナ
ラミクタール*1
ブプロピオン*1
リタリンなどの交感神経作用薬*2
SSRI*3
エクセグラン*4
エビリファイ*5
*1は過食に対し有効と言うより、悪化させないといった穏和な効果を持つ。人によると過食に効果的である。
*2は適応が狭く処方が制限されているもの。
*3パキシル以外のSSRIは過食に対し抑制的であるが、衝動、焦燥感などを来たし、希死念慮やリストカットなどを悪化させ、他の症状を改善せず実用にならないケースも多い。プロザックは海外では過食症に処方されている国もある。日本でも、SSRIでほとんど食欲が失せる人もいるが、実はこれは副作用である。
*4エクセグランは日本では「てんかん」にしか適応がないが、海外では躁状態の代替療法として、あるいは薬物による体重増加に対する減量を目的として処方されることがある。またパーキンソン病にも有効と言うエビデンスもあり、日本でも「トレリーフ」という商品名で発売されている。従って、パーキンソン病にはトレリーフは処方可能だが、エクセグランは適応外処方ができないという制約がある(添付文書に実際にそう書かれている)。桁違いの薬価差があるからであろう(つまり治験費が膨大にかかっており、それを回収する感じ。安価なエクセグランが適応外処方されると、トレリーフなど全く売れないという事態になる。処方制限はやむを得ない)。エクセグランはナトリウムチャンネルを遮断しドパミンとセロトニン活性を高めるらしい。有害作用として、腎結石、ごく稀に致死的な中毒疹がみられる。その他、眠気、運動失調、知覚異常、下痢、悪心など一般的な抗てんかん薬に良く見られる副作用がある。体重減少は頻度の高い有害作用である(これが過食に有効)。
*5過食にはさほど強い効果はないが、エビリファイを服用していると広汎性発達障害的な衝動が減少し、その流れで過食が減少する人がいる。もちろん効果的とまでは言えない人もいる(それどころか、過食になる人もいるほど)。
結局、彼女と話し合い、デパケンRとトピナを主力に治療をすることにした。当初、トピナは50㎎錠1錠、デパケンR200㎎1錠から始め、次第に増量する予定であった。トピナは単独投与できないが、彼女にはデパケンRは情緒を穏やかにさせるので一緒に服薬せざるをえないのはかえって好都合である。トピナは精神症状を悪化させることも多く、適切なケースの確率がやや低い薬物である。的中率が低くても合っている人に非常に効果的であれば、それは優れた薬である。彼女には、
悪いと思ったら、すぐに止めること。過食に効いていても、爆発的に怒るとか、不機嫌などが出てきたら、我慢せずに止めるように。他にも良さそうな薬があるので、そちらに変更すれば良い、と伝えていた。具体的に対応の仕方を伝えておかないと、本人の精神症状を悪化させては無意味である。
トピナ 50㎎
デパケンR 200㎎
ベゲタミンB 1T
レンドルミン 0.25㎎
最初の2週間で、既に2kgほど体重が減少していた。本人は大喜びである。たった50㎎でも過食に効果があったらしい。こういう感じだと、服用を続ければ、次第に体重が元に戻っていくような感じであった。仕事は毎日行っているらしい。ベゲタミンの中にはコントミンがあり、これは過食を来たしうるが、この程度の量だと問題にならないことが多い。だいたいデパケンRも過食にマイナスになる薬物であるが、もしこういう組み合わせでデパケンRが悪い場合は、仕方なくリボトリールを処方していたと思う。
その後、朝からの食欲を減らすためと、本人の冬の「動けなくなること」を改善するため、エビリファイ液を併用することにした。そしてこのような処方になった。
トピナ 150㎎
デパケンR 200㎎
エビリファイ 3cc
ベゲタミンB 1T
レンドルミン 0.25㎎
この処方はちょっとまとまりがないように見えるかもしれないが、僕から見るとシンプルで美しい。どれといって無駄なものがなく調和しているからである。この感覚は、数学や物理学の数式に通じるものがある。
ある時、彼女の普段の様子を家族に聞いてみたことがある。家族によれば、服薬しているとしないでは全然違うと言う。何かあった時に、悲しみ方が違う。ギャーと大声を出さない。以前のようなパニックが全然ないらしい(このパニックは器質性の緊張病症候群)。
仕事には毎日行くし、前よりずっと明るくなっていると言う。以前は調子が悪い時は、周囲の人の話が気に障り、いつも怒っていたような時期もあったらしい。彼女はトピナ処方以後、生まれて初めて半年以上、服薬が続いているのであった。
トピナを使い始めて、数ヶ月で64kgが53kgになった。
こういう子の長期予後だが、たぶん完治するような気がしている。こういうタイプの子供は、昔はなんとなく年齢がいけば問題にならなくなっていたような気がする。戦前の昭和の時代や明治時代の頃のことである。今回の彼女は、もし大学に行っていたら、まだ卒業していないほどの若さなのである。
最近、話していて思うのだが、以前に比べ、ずっとおしとやかになっている。つまりより女性的になった。広汎性発達障害的あるいは診断未満の人は、見かけは女性的で美しくても中の人が男っぽかったりする。これは疾患性である。また、人の話を素直に聞くようになっている。昔は「活発なイケイケギャル」だった。最近はそんな風ではないのである。
今回のエントリは、精神科は患者さんにとって診断名など何だって良く、生活しやすくなればそれで十分なことを良く表している。
参考
パニック障害と広汎性発達障害のパニック
トピナは精神療法をするのか?
広汎性発達障害はしばしば双極性障害に振舞う
アスペルガーと正常の間の人々
このブログは難しい事が書かれておらず、わかりやすいらしい
器質性うつ状態と広汎性発達障害
児童・思春期の患者さん
統合失調症は減少しているのか?