1.01の人
僕の患者さんでリーマス(リチウム)の血中濃度がいつも1.00くらいの人がいる。なぜ「1.01の人」なのかと言うと、1.01という数字を何度も出したことがあるから。2回連続で1.01だったこともある。たいていこの数字近辺だが、たまに0.92位のこともあった。未だかつて1.10は越えたことがない。なぜか狭い範囲の数字が多くブレが少ないのである。リーマスは1000mg処方している。
この患者さんは発病以来、入院している期間が圧倒的に多い人で、かつてはリーマスで治療されていたこともあり、そこが治療の迷彩になっていた。診療情報の範囲では、一見、リーマスでの治療は無理のように見えるのである。
2007年頃の処方
セレネース 12mg
デパケンR 400mg
アキネトン 3mg
ヒベルナ 75mg
(他、胃薬、眠剤、下剤、漢方薬)
この処方ではどうしても躁うつの波が出てくる。この人は非定型精神病といっても良いくらいで、悪化時には被害妄想が出現し人の悪口を言い始め、興奮も酷く他患者とトラブルになるのである。その時期を過ぎると次第に傾眠に移行し眠り姫になる。眠り姫の時は午前中は全然動けない。はっきり昏迷状態になることもあるが、訴える内容はそこまでうつ状態には見えない。いつだったか亜昏迷状態の時に、突然リストカットしたのには驚いた。それまでに彼女はリストカットなんてしたことがなかったからである。
典型的な躁うつの波ではなく、被害妄想、興奮が出てくる時が躁状態といった感じであろう。不眠、多動・多弁などがあるからである。気分が高揚している時も全然スカッとしておらず、爽快感もない。また、身近な人たちとの被害関係妄想が出現している時期は、てんかん性精神病の不機嫌のようにも見えるのが特徴であった。非定型精神病の「てんかん」的側面はこのような所見も含むのだろうと思う。(参考)
非定型っぽい躁うつ病に気分安定化薬をたいして処方しない場合、メジャートランキライザーが併用され、それでも上手くコントロールできないことが多い。彼女の場合、最初はデパケンRを1000mgまで増やし、セロクエルなどの非定型抗精神病薬も併用してみたが、どうもうまくいかなかった。この人はセロクエルなどではかえって病状が悪化したが、他の非定型精神病薬も同じようなものであった。抗精神病薬の中ではセレネースはまだマシな方であるが、躁うつの大きな波は変えられなかった。その後、精神症状にはクレミンがまあまあ良いことがわかり、次第にこのような処方になった。
セレネース 12mg
デパケンR 800mg
クレミン 50mg
アキネトン 3mg
ヒベルナ 75mg
(他、胃薬、眠剤、下剤、漢方薬)
このような処方で悪化時には、更にセレネース液を服用するのである。セレネース液は不機嫌にまあ有効であるが、拒薬が酷く服用させるのさえ容易ではない。概ねこの処方で閉鎖病棟で適応できるが、開放病棟で過ごすのは到底無理であった。
あるとき、思い切って多い量のリーマスで治療してみることにした。やや複雑な精神症状の人であるが(参考)、紹介状にリーマスが効かないように書かれてあったが、ひょっとしたら量が少なかったのではないかと思ったのである(参考)。
僕はリーマスを単純に追加し、1000mgまで増量した。当初、リーマスを開始してもさっぱり良くならなかった。しかし、約1ヶ月で少し安定してきたように見えたので、これはうまくいくかもしれないと思った。安定し始めてから最初にセレネースを漸減した。これはうまくいった。全然支障がなかったので、その後、クレミンも中止している。これは最近の処方。抗精神病薬は一掃している。
2008年7月
リーマス 1000mg
デパケンR 800mg
チロナミン 25μg
ヒベルナ 25mg
(他、眠剤、下剤、漢方薬、バッチフラワー)
この処方で何が良くなったかと言うと、少し悪化した時のその悪化の程度、その期間。病状が悪化し不機嫌になるが、被害妄想的な言動は2~3日くらいしか続かない。以前は近寄れないような剣幕であったが、かなり弱まっていて、まだ一緒に話ができる程だ。その後、次第に眠り姫傾向にはなるが、それほど重くはならない。
また追加でセレネース液を服用することも全くなくなった。また、身体の異常感覚、例えば食事の味が変わったという奇妙な訴えがなくなったし、胃痛などの症状が減少し胃腸薬も整理している。病棟内でも以前ほど手がかからなくなったのである。彼女は今は開放病棟でもやっていけると思うが、今の部屋は気に入っているんだという。だから今も閉鎖病棟のままだ。
この人は、明らかにすべての向精神薬の中でリーマスが一番、合っている。
それも血中濃度が1.00近辺でないといけないようなのである。たぶん、かつての病院ではリーマスの処方量が中途半端だったのであろう。(少し興味があったので調査したところ、600mg程度は使われていたようである)
この処方の最大の疑問は、デパケンRが本当に必要なのか?であろう。
僕は一応、減量にトライしたが失敗した。400mgくらいに減量したらなぜか不機嫌が出てきたので、急遽元に戻している。この人は悪化してしまうと、大変なことになるのでリスクはとれない。看護者も大変な目にあうからである。
双極性障害の一部の人にリーマスとデパケンR双方が必要な人たちがいるが、彼女はそういうタイプなのかもしれない。しかし、まだトライが1回なので、絶対必要と確定したわけではない。なぜなら、今でもちょっとした気分の波は残っているからである。(あの時はたまたまかもしれないということ)
まあ、メジャートランキライザーを一掃できたことで、今回のリーマスによる治療は一応の成功を収めたと言える。
余談だが、この人はレスキューレメディを併用している。胸のどきどき感など、今ひとつはっきりしない身体的な所見がこれで緩和するのである。彼女はバッチフラワーは非常に気に入っているが、これが全般の症状や処方変更にどのような影響をしているかは謎である。
あと彼女の精神病は重いのは重いが、芸術的な才能があり、官製はがきの裏に薄い水彩画を描くのがとてもうまい。絵だけは傑出していると思う。そのような絵葉書みたいなものをよく僕にくれていたが、今でも時々描いてはいるみたい。(参考)
最近も僕にくれたが、本人によれば、前より下手になっているんだという。僕が見た範囲では、前からの差が全くワカラン。芸術的な才能がない人には判別できない範囲なんだと思う。
この人、ずっとリーマス1.01が必要かと言うと、そうでもないような気がしている。時間が経てば、もうちょっと少ない量で大丈夫だろうと思う。人間の体はそういう風になっている。いったん落ち着いた期間を持つことが必要なだけで、将来、どの程度の量で大丈夫なのかは今のところはなんとも言えない。
この患者さんは発病以来、入院している期間が圧倒的に多い人で、かつてはリーマスで治療されていたこともあり、そこが治療の迷彩になっていた。診療情報の範囲では、一見、リーマスでの治療は無理のように見えるのである。
2007年頃の処方
セレネース 12mg
デパケンR 400mg
アキネトン 3mg
ヒベルナ 75mg
(他、胃薬、眠剤、下剤、漢方薬)
この処方ではどうしても躁うつの波が出てくる。この人は非定型精神病といっても良いくらいで、悪化時には被害妄想が出現し人の悪口を言い始め、興奮も酷く他患者とトラブルになるのである。その時期を過ぎると次第に傾眠に移行し眠り姫になる。眠り姫の時は午前中は全然動けない。はっきり昏迷状態になることもあるが、訴える内容はそこまでうつ状態には見えない。いつだったか亜昏迷状態の時に、突然リストカットしたのには驚いた。それまでに彼女はリストカットなんてしたことがなかったからである。
典型的な躁うつの波ではなく、被害妄想、興奮が出てくる時が躁状態といった感じであろう。不眠、多動・多弁などがあるからである。気分が高揚している時も全然スカッとしておらず、爽快感もない。また、身近な人たちとの被害関係妄想が出現している時期は、てんかん性精神病の不機嫌のようにも見えるのが特徴であった。非定型精神病の「てんかん」的側面はこのような所見も含むのだろうと思う。(参考)
非定型っぽい躁うつ病に気分安定化薬をたいして処方しない場合、メジャートランキライザーが併用され、それでも上手くコントロールできないことが多い。彼女の場合、最初はデパケンRを1000mgまで増やし、セロクエルなどの非定型抗精神病薬も併用してみたが、どうもうまくいかなかった。この人はセロクエルなどではかえって病状が悪化したが、他の非定型精神病薬も同じようなものであった。抗精神病薬の中ではセレネースはまだマシな方であるが、躁うつの大きな波は変えられなかった。その後、精神症状にはクレミンがまあまあ良いことがわかり、次第にこのような処方になった。
セレネース 12mg
デパケンR 800mg
クレミン 50mg
アキネトン 3mg
ヒベルナ 75mg
(他、胃薬、眠剤、下剤、漢方薬)
このような処方で悪化時には、更にセレネース液を服用するのである。セレネース液は不機嫌にまあ有効であるが、拒薬が酷く服用させるのさえ容易ではない。概ねこの処方で閉鎖病棟で適応できるが、開放病棟で過ごすのは到底無理であった。
あるとき、思い切って多い量のリーマスで治療してみることにした。やや複雑な精神症状の人であるが(参考)、紹介状にリーマスが効かないように書かれてあったが、ひょっとしたら量が少なかったのではないかと思ったのである(参考)。
僕はリーマスを単純に追加し、1000mgまで増量した。当初、リーマスを開始してもさっぱり良くならなかった。しかし、約1ヶ月で少し安定してきたように見えたので、これはうまくいくかもしれないと思った。安定し始めてから最初にセレネースを漸減した。これはうまくいった。全然支障がなかったので、その後、クレミンも中止している。これは最近の処方。抗精神病薬は一掃している。
2008年7月
リーマス 1000mg
デパケンR 800mg
チロナミン 25μg
ヒベルナ 25mg
(他、眠剤、下剤、漢方薬、バッチフラワー)
この処方で何が良くなったかと言うと、少し悪化した時のその悪化の程度、その期間。病状が悪化し不機嫌になるが、被害妄想的な言動は2~3日くらいしか続かない。以前は近寄れないような剣幕であったが、かなり弱まっていて、まだ一緒に話ができる程だ。その後、次第に眠り姫傾向にはなるが、それほど重くはならない。
また追加でセレネース液を服用することも全くなくなった。また、身体の異常感覚、例えば食事の味が変わったという奇妙な訴えがなくなったし、胃痛などの症状が減少し胃腸薬も整理している。病棟内でも以前ほど手がかからなくなったのである。彼女は今は開放病棟でもやっていけると思うが、今の部屋は気に入っているんだという。だから今も閉鎖病棟のままだ。
この人は、明らかにすべての向精神薬の中でリーマスが一番、合っている。
それも血中濃度が1.00近辺でないといけないようなのである。たぶん、かつての病院ではリーマスの処方量が中途半端だったのであろう。(少し興味があったので調査したところ、600mg程度は使われていたようである)
この処方の最大の疑問は、デパケンRが本当に必要なのか?であろう。
僕は一応、減量にトライしたが失敗した。400mgくらいに減量したらなぜか不機嫌が出てきたので、急遽元に戻している。この人は悪化してしまうと、大変なことになるのでリスクはとれない。看護者も大変な目にあうからである。
双極性障害の一部の人にリーマスとデパケンR双方が必要な人たちがいるが、彼女はそういうタイプなのかもしれない。しかし、まだトライが1回なので、絶対必要と確定したわけではない。なぜなら、今でもちょっとした気分の波は残っているからである。(あの時はたまたまかもしれないということ)
まあ、メジャートランキライザーを一掃できたことで、今回のリーマスによる治療は一応の成功を収めたと言える。
余談だが、この人はレスキューレメディを併用している。胸のどきどき感など、今ひとつはっきりしない身体的な所見がこれで緩和するのである。彼女はバッチフラワーは非常に気に入っているが、これが全般の症状や処方変更にどのような影響をしているかは謎である。
あと彼女の精神病は重いのは重いが、芸術的な才能があり、官製はがきの裏に薄い水彩画を描くのがとてもうまい。絵だけは傑出していると思う。そのような絵葉書みたいなものをよく僕にくれていたが、今でも時々描いてはいるみたい。(参考)
最近も僕にくれたが、本人によれば、前より下手になっているんだという。僕が見た範囲では、前からの差が全くワカラン。芸術的な才能がない人には判別できない範囲なんだと思う。
この人、ずっとリーマス1.01が必要かと言うと、そうでもないような気がしている。時間が経てば、もうちょっと少ない量で大丈夫だろうと思う。人間の体はそういう風になっている。いったん落ち着いた期間を持つことが必要なだけで、将来、どの程度の量で大丈夫なのかは今のところはなんとも言えない。