ポール・ヤンセンとプロピタン | kyupinの日記 気が向けば更新

ポール・ヤンセンとプロピタン

1969年にヨーロッパの一部で承認されたクロザピンは、優れた抗精神病作用を持ち、しかも錐体外路症状や抗プロラクチン血症を生じなかった。(しかし肥満はみられる)

クロザピンは臨床的には陰性症状、認知機能改善などへの効果が高く、非定型抗精神病薬と呼ばれるようになった。クロザピンはその後、無顆粒球症という重大な副作用が出現したこともあり、日本では発売されることはなかった。(現在、世界のほとんどの国で承認されている)

後にクロザピンの薬物プロフィールから、セロトニン2A受容体拮抗作用が注目され、同様な効果を持ちしかも無顆粒球症を生じない薬物として、ジプレキサとセロクエルが開発されている。これらは日本ではMARTAと呼ばれている。

セレネースなどの従来型抗精神病薬が広く使われている中で、ポール・ヤンセンは、セレネースと同じブチロフェノン系のプロピタンが非定型抗精神病薬の特徴の一部を示すことに興味を抱いた。その後プロピタンの薬物プロフィールを研究するうちに、セロトニン2A受容体拮抗作用の重要性に気付き、リタンセリンの合成を経てリスペリドン(リスパダール)の合成に成功している。これは1985年のことである。

このリスパダールこそ、世界初のSDAであった。

このように現在の非定型抗精神病薬のルーツはクロザピンであるが、SDAのルーツはプロピタンなのである。

プロピタンは低力価のブチロフェノンであり、一般の定型薬と比べて、振戦、筋強剛、アカシジア、ジスキネジアなどの副作用が少ない。少量では抗パーキンソン薬は必要なく、その点で非定型抗精神病薬的だ。

定型抗精神病薬やSDAでジスキネジアやジストニアが出現し、しかもMARTAも合わない人はプロピタンを試みるのも1つの方法である。

プロピタンを使ったことがある人ならわかるが、薬効的にはぼんやりした薬なのよね。しかし副作用は少ないし、表情が淀まないのは良い。効いているのか、効いていないのか、今ひとつわかりにくい。しかし最低限の仕事は果たしているという感じなのである。

プロピタンは200mgがリスパダール1mgに相当すると言われているが、僕はその換算は微妙だと思っている。これは過去ログでも出てくる。400~600mgはリスパダールだと2~3mgに相当するが、この量ではアカシジアが出る人もみられる。プロピタンは添付文書的には600mgまでなのである。

プロピタン600mg=リスパダール3mg

僕はプロピタンを600mg処方するのは相当に抵抗がある。プロピタンは比較的お年寄りに使っているので、たいした量を処方していない人の方が多いこともある(ほとんどが150mg以下)。

プロピタンが陰性症状を改善するかというと、それほどではないように見える。少なくともエビリファイやジプレキサほどのキレはない。しかし、一方的に抑え込む感じでもない。アパシーにはならないからだ。

書物を見るとプロピタンは鎮静的な薬物と書かれていることが多い。しかし僕にいわせれば、それはちょっと視点が違う感じだ。プロピタンはロドピンやバルネチールのような薬効ではないからである。ちょっとだけ落ち着かない感じの人にプロピタンを使うと、すっと落ち着くので、まあこれは鎮静しているとも言えるよね~と思う。同時に、「おぬし、なかなかやるな」と思ったりする。

しかし、積極的にはヘベらせはしないのだ。リスパダールのように。(参考

これは陰性症状へのマイナスの作用はあまりないことを意味している。お年寄りでプロピタンを服用している人たちは結構活発だと思うよ。エビリファイ的人工賦活ではない陰性症状への効果はあるようにも見える。

半年ほど前、ある男性患者さんでプロピタン50mgを処方していたのを思い切ってジプレキサに変更してみた。プロピタン50mgはリスパダール換算で0.25mgである。最初、ジプレキサ2.5mg錠を出したところ好感触だった上、もう少し減らしても良さそうだったので、しばらくしてその半分に減量した。

ジプレキサ 1.25mg

この量はリスパダール0.5mgに相当するので、換算的には以前より2倍に増えている。本人に変更の感想を聞いてみたら、夜がぐっすり眠れるようになったという。また僕からみると、表情がほんのわずかだが、柔らかくなったように見えた。この人は純粋にプロピタン単剤だったのだが、今回ジプレキサ単剤になった。眠剤すら処方していない。僕が変更しようと思った理由だが、わずかに心気的な訴えがあるので、それが改善すればと思ったことがある。(診断は統合失調症)

この人、今でもジプレキサ1.25mgのままだ。副作用的なものでは、変更後、1kgだけ急に体重が増えた。ところがその後、全然変化がない。副作用はトータルではほぼない。

プロピタンの副作用だけど、体重増加については入院患者さんではそこまで影響がない。彼らの体型も肥満という人は極めて少ない。しかし、入院と外来は違う。外来患者さんではたまに過食や体重増加の影響が出る人がいる。入院患者さんでは肥満などないのであるが、外来ではいくらか影響が出る人もいるように見える。これは患者さんがオヤツや食事の管理ができないこともある。つまり節制できない状況だと体重が増える人もいるようなのである。

僕はプロピタンの体重増加、過食のため中止したことがここ数年でも何回かある。もちろん影響がそこまでない人もいるのであるが。こういうのを見ても、プロピタンは非定型っぽい雰囲気はある。

僕の友人が時々出てくるが、彼女にはプロピタンは比較的良いと思った。しかし、彼女には過食傾向と体重増加が出て長期には難しかったのである。彼女はトリプタノール、コントミン、デパケンRなどでは全然体重が増えないが、プロピタンはダメだ。こういうのを見ても、体重の増加だけのパラメータでも個人差は大きい。

プロピタンは使いやすさという点ではなかなか良い薬だと思う。いまいち、パンチ力はないけどね。

参考
プロピタン