少量薬物療法の功罪
うちの病院では薬剤の購入費が前年より200万円くらい減少見込みであることがほぼ確実になっている。病棟稼働率および外来人数の前年からの伸びからすると、これは大変なことだ。近年の非定型抗精神病薬やSSRIは非常に高価であり薬剤の購入費が年々増えて行くのは仕方がないように見えるからだ。
薬剤購入費の減少にもっとも貢献しているのはエビリファイで間違いない。エビリファイは本当にスーパーな薬で少ない量で思わぬ効果を発現するので、結果的に多くの抗精神病薬や抗うつ剤を整理できる。このような話は今までのエントリにもいくつか出てきている(参考1、参考2、参考3)。
他、やたら多くの薬物が投与されている、一見、減らすのが難しそうに見える患者さんも、どうしようもないわけではなく、ある程度減量のコツがある。それは定型抗精神病薬をうまく使いこなすことであろう。その人に合っているのかどうか微妙な非定型抗精神病薬のみで治療しようとしているため多剤大量になっているからだ。
非定型抗精神病薬とは言え、リスパダール10mg以上の処方は話にならない。これなら定型抗精神病薬をうまく処方して他剤に変更し換算で6mg以下に落とすほうがまだマシだ。それができないケースで、リスパダール10mg(コントミン換算1000mg)以上処方せざるを得ない場合でも、リスパダール単剤でない方がたぶん脳には悪影響が少ないと思っている。これは個人的な意見であり、一般には逆に考えられている。なぜリスパダール単剤が良くないかだが、おそらくリスパダールが極めてincisiveな薬物だからだろう。
リスパダール大量の悪いところは、次第に流嚥や多飲水が生じあらゆる面で精神が劣化することである。短い期間でもリスパダールで治療した場合、陽性症状の消退後の「精神病後抑うつ」のような無気力、不活発の状態が目立つ傾向はある。僕はこれが嫌だから、できるだけリスパダールは避ける処方を心がけている。(参考4、参考5)
これは転院後のある女性患者さんの処方。
トロペロン 9mg
ロドピン 200mg
リスパダール 10mg
デパケン 600mg
アキネトン 3mg (リスパダール換算20mg)
(他眠剤、便秘薬)
これが減量するのが容易でなかった。ジプレキサやセロクエルは病状を悪化させて合わないし、ルーランやエビリファイも興奮を生じて良くなかった。この処方は直感的にはリスパダールが元凶である。トロペロンとデパケンとアキネトンは良いと思った。ロドピンは減らせれば減らしたいと言ったところ。
この人は悪くなると、突然、洗剤を飲んだりするので、油断ができないのだけど、全般に量を整理できればそのような突発的な異常行動も少しずつ減るような気がしていた。当初はリスパダールを徐々に1~2mgくらいずつ減量した。そうすると実際に病状が悪化した。表情が硬くなり拒絶、拒薬などが出現するのである。これはリスパダール減量による悪化に見えるが実は微妙に違う。抗コリン性の離脱とか他の要因もあるから。だからここでリスパダールを元に戻したら、今までの苦労が水の泡になり、振り出しに戻るのでそれはできるだけ避けたい。
どういう風に対処するかはいろいろあるが、現代社会ではそのために保護室を使うのは何のための精神医療かわからないし、またこの悪い状態を放置もできない。だいたい看護者が文句を言う。オーディエンスが黙っていないのである。
この人の場合、セレネースよりトロペロンが良いと思ったので、短い期間ずつトロペロンを応急的に注射しながら時間を稼ぎリスパダールの減量を進めた。グダグダになりながら、定常状態になるのを待つ作戦である。
悪化時
トロペロン1~2A
アキネトン1A
筋注
こういう風に対応すると、患者さんも少しずつその減量された薬物量に慣れてくる。彼女の場合、トロペロン単剤は無理そうに思われたので、追加薬としてクレミンを選んだ。そうして数ヵ月後、遂にリスパダールを一掃したのである。リスパダールの減量に比べたら、ロドピンの減量は楽なものだった。クレミンの増量に併せてトロペロンも少し減量し、デパケンを800mgまで増量したが、デパケンが適正の量なのかは自信なし。僕は統合失調症の人へのデパケンは600mgまでが多いから。今の処方は、
クレミン 150mg
トロペロン 6mg
デパケンR 800mg(リスパダール換算9.2mg)
(他眠剤、便秘薬)
とこんな風な処方になった。リスパダールを減量して最も大きな変化は拒絶などの陽性症状が減少し表情が明るくなったこと。抑うつ気分が改善しているが、これはリスパダール中止のせいだけではなく、クレミンの効果もある。こういう風にトータルの薬物を減量し薬剤費を安くしていくのである。ところで、今日のエントリの題を見てもらうと良いが、問題は「少量の薬物療法の功罪」。
少量の薬物療法の良い点
① いらない副作用を避けることができる。
② いざとなった時に、追加薬剤の有効性が高い(相対的なものだが)
③ 見た目にシンプルだと他人に見せても恥ずかしくない。(他科受診など)
④ 病院の収益に貢献(薬剤費減少のため)
問題は少量薬物療法の悪い点である。少量の薬物療法だと季節感などが出て良いのだけど、良くも悪くもその人の自然の病状変化のバイオリズムが出てきやすい(参考6)。さらに無理といえるくらいの少量で病状維持しようとすると、季節のゆさぶりに影響されやすいことがある。ちょっと暑かったとか、そのくらいで情緒不安定になったりするのである。さらにベテランの患者さんになると、減量のためにとてつもなく病状が悪化し、数ヶ月間、精神症状が芳しくないということがありえる。
そんな人たちで旧来の薬物でコントールされていて、そこそこ安定しており、副作用もそれほどではないなら、無理な減量はしないでおくという方針も十分に合理的だと思っている。
薬剤購入費の減少にもっとも貢献しているのはエビリファイで間違いない。エビリファイは本当にスーパーな薬で少ない量で思わぬ効果を発現するので、結果的に多くの抗精神病薬や抗うつ剤を整理できる。このような話は今までのエントリにもいくつか出てきている(参考1、参考2、参考3)。
他、やたら多くの薬物が投与されている、一見、減らすのが難しそうに見える患者さんも、どうしようもないわけではなく、ある程度減量のコツがある。それは定型抗精神病薬をうまく使いこなすことであろう。その人に合っているのかどうか微妙な非定型抗精神病薬のみで治療しようとしているため多剤大量になっているからだ。
非定型抗精神病薬とは言え、リスパダール10mg以上の処方は話にならない。これなら定型抗精神病薬をうまく処方して他剤に変更し換算で6mg以下に落とすほうがまだマシだ。それができないケースで、リスパダール10mg(コントミン換算1000mg)以上処方せざるを得ない場合でも、リスパダール単剤でない方がたぶん脳には悪影響が少ないと思っている。これは個人的な意見であり、一般には逆に考えられている。なぜリスパダール単剤が良くないかだが、おそらくリスパダールが極めてincisiveな薬物だからだろう。
リスパダール大量の悪いところは、次第に流嚥や多飲水が生じあらゆる面で精神が劣化することである。短い期間でもリスパダールで治療した場合、陽性症状の消退後の「精神病後抑うつ」のような無気力、不活発の状態が目立つ傾向はある。僕はこれが嫌だから、できるだけリスパダールは避ける処方を心がけている。(参考4、参考5)
これは転院後のある女性患者さんの処方。
トロペロン 9mg
ロドピン 200mg
リスパダール 10mg
デパケン 600mg
アキネトン 3mg (リスパダール換算20mg)
(他眠剤、便秘薬)
これが減量するのが容易でなかった。ジプレキサやセロクエルは病状を悪化させて合わないし、ルーランやエビリファイも興奮を生じて良くなかった。この処方は直感的にはリスパダールが元凶である。トロペロンとデパケンとアキネトンは良いと思った。ロドピンは減らせれば減らしたいと言ったところ。
この人は悪くなると、突然、洗剤を飲んだりするので、油断ができないのだけど、全般に量を整理できればそのような突発的な異常行動も少しずつ減るような気がしていた。当初はリスパダールを徐々に1~2mgくらいずつ減量した。そうすると実際に病状が悪化した。表情が硬くなり拒絶、拒薬などが出現するのである。これはリスパダール減量による悪化に見えるが実は微妙に違う。抗コリン性の離脱とか他の要因もあるから。だからここでリスパダールを元に戻したら、今までの苦労が水の泡になり、振り出しに戻るのでそれはできるだけ避けたい。
どういう風に対処するかはいろいろあるが、現代社会ではそのために保護室を使うのは何のための精神医療かわからないし、またこの悪い状態を放置もできない。だいたい看護者が文句を言う。オーディエンスが黙っていないのである。
この人の場合、セレネースよりトロペロンが良いと思ったので、短い期間ずつトロペロンを応急的に注射しながら時間を稼ぎリスパダールの減量を進めた。グダグダになりながら、定常状態になるのを待つ作戦である。
悪化時
トロペロン1~2A
アキネトン1A
筋注
こういう風に対応すると、患者さんも少しずつその減量された薬物量に慣れてくる。彼女の場合、トロペロン単剤は無理そうに思われたので、追加薬としてクレミンを選んだ。そうして数ヵ月後、遂にリスパダールを一掃したのである。リスパダールの減量に比べたら、ロドピンの減量は楽なものだった。クレミンの増量に併せてトロペロンも少し減量し、デパケンを800mgまで増量したが、デパケンが適正の量なのかは自信なし。僕は統合失調症の人へのデパケンは600mgまでが多いから。今の処方は、
クレミン 150mg
トロペロン 6mg
デパケンR 800mg(リスパダール換算9.2mg)
(他眠剤、便秘薬)
とこんな風な処方になった。リスパダールを減量して最も大きな変化は拒絶などの陽性症状が減少し表情が明るくなったこと。抑うつ気分が改善しているが、これはリスパダール中止のせいだけではなく、クレミンの効果もある。こういう風にトータルの薬物を減量し薬剤費を安くしていくのである。ところで、今日のエントリの題を見てもらうと良いが、問題は「少量の薬物療法の功罪」。
少量の薬物療法の良い点
① いらない副作用を避けることができる。
② いざとなった時に、追加薬剤の有効性が高い(相対的なものだが)
③ 見た目にシンプルだと他人に見せても恥ずかしくない。(他科受診など)
④ 病院の収益に貢献(薬剤費減少のため)
問題は少量薬物療法の悪い点である。少量の薬物療法だと季節感などが出て良いのだけど、良くも悪くもその人の自然の病状変化のバイオリズムが出てきやすい(参考6)。さらに無理といえるくらいの少量で病状維持しようとすると、季節のゆさぶりに影響されやすいことがある。ちょっと暑かったとか、そのくらいで情緒不安定になったりするのである。さらにベテランの患者さんになると、減量のためにとてつもなく病状が悪化し、数ヶ月間、精神症状が芳しくないということがありえる。
そんな人たちで旧来の薬物でコントールされていて、そこそこ安定しており、副作用もそれほどではないなら、無理な減量はしないでおくという方針も十分に合理的だと思っている。