パニックがほぼ治癒している人 | kyupinの日記 気が向けば更新

パニックがほぼ治癒している人

パニック、うつ状態があったのだが、今はほぼ治癒した患者さんについて紹介したい。今はもう服薬していないが、その経緯は偶然なものだ。このブログの若い読者の方には、少し参考になるかもしれない。この患者さんの経過、服薬量、精神所見はカルテを参照しているのでかなり具体的なものになっている。

初診時、「気分の浮き沈みが激しい、胃痛、吐き気、頭痛、パニック」などが主訴であった。彼女の年齢は20歳くらい。ここ3~4ヶ月で体調が悪化し、ここ最近は平均して沈んでいる。朝から仕事に出かけようとすると吐き気がする。多いときは1日に1回くらいパニック発作が出るという。周囲で悪口を言われているのかな?と思うときが時々ある。音が妙に頭に響く。食欲は落ちている。過食発作、嘔吐、希死念慮はない。

初診時の彼女のイメージは、内因性っぽいうつ状態といったところ。ただしパニックは神経症的なものではある。きっかけは職場の人間関係であったようだが、僕はこのようなことをあまり聞かないようにしているので、詳しくは知らない。ドグマチールとメイラックスでは少し不足すると思われたので最初からパキシルを10mgだけ併用している。

初診時の処方
ドグマチール  100mg
パキシル    10mg
メイラックス  1mg


服用して2~3日は良かったけど、その後めまいが出てきた。かえって症状が酷かったこともある。いかにもパキシルの副作用っぽい症状であるが、最初だけで治まる可能性もありそのまま維持していた。しかし体調は回復せず、うつ状態も酷い。

「夜に運動していると、突然パニック発作になった。」「仕事のことを考えていると苦しくなり、気持がおかしくなるような気がする。」

などというので、全面的に薬を変更し、しっかり治療するために入院させることにした。ちょうど初診2週間目に入院。彼女の場合、絶対入院しなくてはいけないほどではないが、仕事を休むのに口実がいるし(入院していた方が職場の人たちにはリアリティがある)、たまたま個室が空いていたのがあった。

入院後はデパスとアモキサン25mgで開始。処方し始めてすぐ「口が渇くのが辛い」という。夜はハルシオンで寝つきは良い。立ちくらみ、めまい、嘔気がみられる。夜になると情緒不安定になってくる。なにか怖いという。

入院直後の処方
アモキサン(25)  1カプセル
デパス(0.5)    2T


アモキサンを選んだ理由は、いかにもアモキサンが合いそうだから。うつ状態以外になんとなく余計な症状があるでしょ。しかし、アモキサンの口渇が酷すぎるので長く続けられないと思った。

入院後6日目にアモキサンを諦める。ルジオミール25mgから始めるが、処方後2日目には、うつが減ってきて、良く眠れるようになってきたという。いやに効果が早く現れたように見えるが、これはこれまでアモキサンを使っていたのが効いている。そんな感じ。

入院1週間目の処方
デパス(0.5)   2T
メトリジン     2T
メチコバール    2T
ルジオミール(25) 1T
ドラール(15)   1T


口がひどく渇くのでビタミンB12などを併用。これは気のせいくらいは効果がある。こんな人はビタミン剤は良いし。また、立ちくらみに対しメトリジンも併用している。その後、ルジオミールは50mgへ増量。まだ不眠などが十分には改善していなかったが、どうもルジオミールでいけそうな感触があったので、入院後20日で退院させた。

退院直後
「実家だと落ち着けるけど、マンションだと少しソワソワしますね。」
「感情もイライラしたりして良くないです。」「気分の浮き沈みは軽くなった」
「眠さは大丈夫。めまいはないですけど、立ちくらみは今でもあります。」

などと言うが・・

退院2週間くらい
吐き気はない。うつはかなりなくなってきた。今は家で手伝いをしている。

1ヵ月後
「2~3日単位で良かった悪かったり。でも、かなり良くなった。」「夜に2~3時間ごとに目が覚めている。少し蕁麻疹が出てきた。」

こういう時期に突然、蕁麻疹が出現している。この時、ルジオミールによるものの可能性があると思ったが、あまりにも出現が遅いし、またすごく酷いわけではないので、抗アレルギー剤を併用しつつルジオミールを継続。この患者さんは抗うつ剤の副作用が出すぎるため、他の薬物に変更するにもかなりリスクがある。またやりなおしになるのは避けたい。

すごく楽観的に考えると、このような回復期に蕁麻疹が突然出てきてもおかしくはない。こういう自律神経の嵐が生じる人は体の回復能力は高いという感触はある。彼女は、「なるべく外出して、家で過ごさないようにしている。」「雨の日が少し憂鬱です。」

1ヶ月半後
なんと、パキシル10mgを思い切って追加してみた。これには2つの理由がある。これまでの経過から、初診以後の悪化はパキシルだけの副作用とは思えなくなってきたこと。また、彼女の薬の弱さからすると、ルジオミールは50mgを超えて処方できそうにないこと。パキシルを追加すれば、今よりも病状が回復すると思ったことがある。パニックが再現したから追加したわけでなく、ルジオミール主体の治療で既にパニックは消失していた。彼女の維持療法にはパキシルの方が適していると思った。それはパキシルの抗うつ剤としての力価の高さと相対的な副作用の少なさを考慮している。

もともとパキシルは抗うつ効果の発現があまりに遅いので、最初の副作用で諦められ易い面はある。また初診時は続かなかったけど、今のわりと落ちついた状況なら大丈夫ということはありえる。すごく、変なことをしているように見えるだろうが、僕はほぼ大丈夫と思っていた。ただ、現在ならたぶんジェイゾロフトを使うだろうと思う。なぜデプロメールではないかというと、彼女には十分な抗うつ効果が必要だから。彼女にはデプロメールの大量の服用は難しいと思ったことがある。ルジオミールはそのまま。彼女はしばらくして派遣の仕事をすることにしたという。

2ヵ月後
働き始めた。

3ヵ月後
「ドラールだけで眠れる。」「今の職場はなんとかやっていけそう。」「薬をやめると、めまいとたちくらみが出る。」「蕁麻疹は完治した。入院している当時から8kg体重が減った。」「食事は、過食も含め問題ない。」

3ヶ月半後
表情が断然良くなってきた。めまいもない。「今の職場は比較的良いです。」という。パキシルを入れて一段とよくなっている。

4ヶ月後
「普通に働いていた。」「仕事はかなり面白いです」「たまに2日くらい不調なことがあった。でも、うつはかなり良いです。」「睡眠薬は飲まなくても眠れます」

症状が落ち着いてくると、僕は「眠剤は飲まないなら飲まなくて良い」ということが多い。こういう患者さんの不眠は昼間が悪いから不眠になるわけで、昼間の調子が良くなると、自然に薬なしで眠れる人が多いからだ。

5ヵ月後
そろそろ薬を減量しましょうか、という話をする。ルジオミール25、パキシル10mgくらいで様子をみて、その後はとりあえずパキシル10mgだけにするようなことを伝える。

6ヶ月後
彼女は来なくなったのである。

うちの病院の場合、こういうタイプの患者さんが急に来なくなった場合、「去るものは追わず」というスタンスなのである。ただ、ずっとデイケアに来ている人や訪問看護を実施している人、あるいは、統合失調症や非定型精神病の人で、家族も受診を知っている場合は電話だけは入れる(ことの方が多い)。なぜこういう風にしているかだが、精神科治療とはいえ、受診するかどうかは任意のものだから。あと、こういうタイプの患者さんは悪くなったらまた来るでしょ、というのがある。

ごく最近、それこそ数年ぶりに外来の待合室で彼女を見た。外来の婦長さんに○○さんが来られているからと呼ばれて行ってみると、今日はパニックの友人がうちの病院に初診するので同伴して来たのだという。明るい表情で元気そうだった。

彼女は僕の病院を紹介してくれたのである。待合室で彼女の近況を聞いてみたら、ごくたまに調子が悪い日もあるけど、ほとんど大丈夫なんだと。普通に仕事をして生活できているらしい。こういう風になんとなく治ってしまう人は、世の中には相当数いると思うよ。特に20歳くらいだと。

彼女の場合、特に自律神経症状がすごく出ていたのだが、あれがきっと予後良好のサインだったような気がしている。

あれは体を守ってくれていたのだと、僕にはそんな風に思える。

参考
デプロメールとレスキューレメディ&PMS