セカンドオピニオン | kyupinの日記 気が向けば更新

セカンドオピニオン

数年前から、うちの病院ほど精神疾患が良く治る病院は他に実在しないと思うようになった。これは全くおめでたい話で、こういうことを他の精神科医にいうと笑われる。いわゆる「井の中の蛙大海を知らず」といったところであろう。こんな風に思った根拠は、あちこちで働いてきた経験、見てきたことの比較からなのであるが、それでも挙げていけば数え切れないほどある。例えば、

①ドクターショッピングの患者さんがたいていの場合、うちの病院で終止符を打つ。

②これはどう考えても無理と思えるような患者さんが寛解し、しかも薬すらいらなくなるケースがある。そうでなくても全般に治療状態が非常に良いこと。(転勤になっても県外から来院されている)

③カウンセリングなき不登校の完治。(笑)

④この7~8年とその前の7~8年と比べても治療成績が改善している。

⑤特に入院治療での成績が良いこと。

⑥僕が院長をしていること。

などであるが、上の特に①②が大きいと思っている。不登校の完治については、すべての患者さんでうまく行くわけではないが、こういうケースは完治するというポイントは掴んでおり、実は成人の慢性疲労症候群や症状精神病に関係が深い。つまり生物学的要因が強い不登校は完治する可能性を秘めているのである。まだエントリでは出てきていないが、コメントなどでちょっとだけ触れたことがある。これは非常に面白い内容なので、いつかアップしたい。

ある時、僕の大学の関連病院の院長から、セカンドオピニオンと後進の指導のため月に何回かでも良いから来てほしいという依頼があった。僕は精神科関係の友人との交流はあるが、近年は出身大学関係でお手伝いするようなことはなかった。ただ、司法関係は精神鑑定などはしていたので、公的な面で全く奉仕していなかったわけではない。

このような依頼は名誉なことでもあり非常に断りにくい。ただ、最近は体調面で完全に良いというわけではないので、できることならやりたくはなかった。もちろん嫁さんは大反対である。うちは子供がいないし、他所の病院まで出かけて行って頑張らなくても良いというのもある。

結局、月に何回か行くことにした。普通の感覚ではこの話は断れない。他の病院、それも精神科の中枢病院と言える病院がどのような感じなのか、久しぶりに見てみたいと思ったこともある。その病院では外来患者を診て入院が必要になれば、若手医師に処方、治療のアドバイスを行うといった感じだった。

最初に外来を診始めた時、これは別世界だと思った。初日、最初の患者さんは統合失調症であった。初めての患者さんだったので、30分以上かけてしまった。普段はそこまでは時間をかけないのだけど。

しかし、2番目の患者さんはアスペルガー症候群だったのである。診断は統合失調症とされていたが、薬はきわめて少量であり診断が違っても結果はあまり変わらないと思った。実際、アスペルガーと断言できるほど確実ではないし。僕が思うだけで。

しかし、次の患者さんを呼んだところ、なんと、またアスペルガー症候群だったのである。

「2人も続くなんて・・」

この人も診断は統合失調症であったが、そんなことはともかく、むしろ自分の頭がおかしいのではないかと思った。アスペルガーは比較的少ない疾患だから。

その後、1日かけて外来を診ていたが、全般的に特に20~30歳代の患者さんの病状がうちの病院の患者さんより断然良くないと感じた。かなり大きな差なのである。統合失調症の場合、幻覚妄想の残遺率が高く、しかもトータルの薬物量も多い。

ジプレキサの場合、20mgの処方が多いのであるが、20mg処方されている人でもあんがい幻覚が止まっていない。うちの病院では外来ではそもそも20mgの処方の人すらいない。5mgが圧倒的に多いのである。しかも、かなり古い人を除き幻覚妄想は消失している。同じジプレキサなのに、これは謎過ぎることであった。

何週間か行ってみて、徐々になぜこうも病状が悪いのか見えてきた。全般に治療状態が悪い理由だが、まず精神科医の向精神薬の理解が十分でないことがある。

エビリファイ12mgで治療されていた若い女性患者さんだが、エビリファイのために次第に病状が悪化していた。エビリファイの場合、処方したその夕方か翌日くらいにはっきりわかるように悪化するケースと、徐々にタイタニックが沈むように静かに悪化していくケースがある。この場合、注意していないと悪化していることとエビリファイの関係が掴みにくい。悪くなってからの放置時間が長くなると、その後他の薬物で治療を開始してもなかなか改善しないこともある。

彼女の前主治医はエビリファイで悪化していることに気がついてなかった。再診の前日、2階から飛び降りて顔面を打ち、顔に青アザを作っていたが、このような不穏状態では、どうみても入院が必要と思った。うちの病院ならもちろん入院させる。ところが母親が家で見たいというので入院は難しかったのであるが、僕はいずれ入院せざるを得ないのではないかと思った。

その女性は以前ロドピンやリスパダールで治療されていたようであった。過去のカルテによると、リスパダールは悪くはないように見えた。僕は直感的にはその女性はジプレキサが良いように思った。理由はなんだと言われても困る。これは感覚的なものだ。

僕は、それまでの薬をすべて中止するように指示し、夕食後にジプレキサザイディス10mgとセレネース液2mlだけ服用するように伝えた。この量も感覚的なものなのである。

次回の受診時には、それまでの病状が嘘のように回復していたのであった。

母親によれば、ジプレキサザイディスを服用し始めて3日目に、突然、人が変わったように落ち着いたという。まさにジプレキサの著効例であった。今回の場合、いきなりジプレキサを処方するのは怖いところだが、ここまで病状が悪いと、かえって処方しやすかったことがある。

この患者さんは、3回目に会った時は更に改善しており、明るい表情で話ができるようになっていた。それでもいったんジプレキサは15mgまで増量、セレネース液を中止した。現在は10mg単剤であるが最終的には7.5mgで良いと思う。5mgは無理かもしれない。

その後、彼女は面白いことを言っていた。僕が「○○先生をご存知ですか?」というのである。実はその○○先生は僕のちょっと先輩であり、以前、7~8年、一緒に仕事をしたことがある。今はクリニックを開業している。彼ほど親しいドクターは他にいないのに、彼女が偶然名前を挙げたのは不思議だ。彼女によれば、まだ10代の頃、この病院で主治医で診てもらっていたというのである。彼女はまだまだ良くなると思う。おそらくリスパダールやロドピンで治療するよりジプレキサが断然良いはずだ。

あと、非定型に処方変更した時にそれが合わないことに気付かず、更に上乗せで他の薬物を使い、どうしようもなくなっているものがいくつかあった。

ある患者さんは、リスパダールからジプレキサに変更したのだが、ジプレキサで悪化し、そのためにリスパダールを再開し結果的に2剤併用になっていた。すごい副作用で、ジスキネジア、流涎が酷く、しかもまずいことにジプレキサを減量すると悪化するのでそれもできないでいるのだ。これはどうみても外来で変更するのは難しいと思った。20歳前半の女性患者さんでこれなのである。

たぶん、ジスキネジアの元凶はリスパダールなのであるが、ジプレキサもフル・ドーズ(20mg)入れば、もちろん良いわけはない。これはどうしようもないわけではなく、たぶん、デパケンRやエビリファイを軸にすれば減量できるかもしれない。抗精神病薬は一時中止しておければ理想だが、もし処方するならプロピタンくらいである。

僕はその患者さんは、デパケンRとリスパダールの少量だけで最終的には良いと思った。リスパダールの代わりにプロピタンかクレミンが良い場合もありうる。クレミン単剤ならデパケンRも必要ないかもしれない。

また、ある小柄のまだ20歳代の少年にはリスパダール14mgとセレネースが10mgが併用で処方されていたが、どうみても長期入院している患者さんの顔であった。このような処方は急には手がつけられない。下手に減らそうとすると急激に悪化することがある。この程度の大量処方は変更による悪化率がむしろ高い感覚がある。こういう風な多剤併用はエビリファイが合えば、かなり減らせると思う。数ヶ月かけてそうしてみるしかないと思った。

診察後、処方箋を書いたが、その後外来看護師さんから連絡があった。なんと、その少年はハロマンスもしているのだという。その日は月に1度のハロマンス筋注の日であった。

工エエェェ(´д`)ェェエエ工

「あれだけ薬が出ているので、まさかそういうのまであるとは思わなかった。」

ある30歳くらいの女性患者は、外来で独語が止まることがなかった。話しかけても返事すらできない。疎通性が悪いのである。この人の場合ジプレキサ単剤処方であったが、単剤でもこれほど悪かったら意味ないって。もうジプレキサで治療は難しいと思った。よく外来で診てるよと言った感じ。うちの病院なら、入院させて適切な薬物を検討する。(この人に僕がどのような処置をしたのか思い出せない)

全体を診ると、まさに悲惨。いかにうちの病院の患者さんが落ち着いているか良くわかったよ。

失敗のパターンだが、非定型精神病薬で悪化が稀ではないのが見えていない。しかも、その悪化を他の薬でカバーしようとして多剤併用になっている。まさに副作用の嵐状態。なんだか、無駄にあがいている処方になっているのである。

思えば、精神科の多剤併用大量処方は、非定型抗精神病薬が発売されるようになって更に増えたような気がする。これは、昔のブチロフェノンが力価が高く効果が直線的だったのに比べ、非定型抗精神病薬はそうではなく、たまに後戻りしたり、複雑に作用するからと思う。

あと、こういう病院の特性であるが、主治医が薬物変更している時に移動になり他の若い医師が診るようになることがある。ところが薬が合わなくて悪くなっていることに新しい医師は気付かず、「この人はこういう症状がある人だ」と思ってしまうことも見逃せない。悪くなっても誰がそうしたのか責任も曖昧になっているのである。

だから入れ替わり激しい病院で、また経験が乏しい医師が多いとやはり難しい。だから新米の医師が失敗しているのは経験不足もあり、一概に責められないところがある。これらには、そう悪意があるとも思えないのがなお悲しい。

双極性障害に関しても悲惨であった。まず双極障害自体が見えていない。申し送りをみると「大うつ病」と診断しているが、これはあまりにもと思う。「大うつ病」という診断が操作的診断っぽくて笑える。あれは変な用語で、まあ直訳なのだろうが、もう少しマシな名前を考えた方が良いといつも思っている。過去のカルテの記載だけではっきり軽躁エピソードが見えており、双極2型に思えるくらいなのである。わざわざ本人に聞かなくても。

そのくらいだから、もちろんデパケン、リーマス、テグレトールなどの気分安定化薬があまり使われていなかった。使わなくても病状が良いなら問題ないけど、そうでもないのである。うつ病~双極性障害の処方で最も驚愕したのは、パキシル60mgという処方。

これって減点になると思うんですけど・・
うちの病院なら、間違いなく減点になる。これは、

① 中枢病院なのでレセプトを見る医師が大目にみている。
② 中枢病院なので、研究の意味合いもあり減点も覚悟している。

のどちらかだと思った。

外来を診てきてやはり最大の謎は、ジプレキサの処方量が全般に多く、なおかつ全然幻覚妄想などの陽性症状が消退していないこと。これは簡単に説明のつかない不思議なことであった。その病院では5mg程度で落ち着いているような人が全然いないのである。

先日、ブミ氏が僕が精神療法をしているからではないか?と話していたが、僕は統合失調症の場合、簡単な助言と生活指導くらいしかしていない。だいたい、「統合失調症の認知療法」は、ちょっとおかしな話ではないか?と思っているほどなのである。

結局いろいろ考えてこのような結論に至った。まず大量併用処方パターンは少しでも改善した際に、減量する努力をしていないのが良くない。多い用量で定常状態になり、何かのストレスで悪化した際に更に薬物量が増える。あと、やはり薬物と疾病の理解が低いというのがある。オーソドックスに治療してうまく行かない時に、打つ手がなくなっている。デパケンRやエビリファイを併用すればとか、もう少し広い視野で治療したらというのが多いのである。

僕の他科の友人が言っていたのであるが、ある疾病の治療法を考え出して本を出版した場合、しばらく遅れて他大学の人たちがその本を見ながら治療をする。その頃は、本家はもう少し工夫した治療をしている。本を見てやっている人たちと最初の人たちでは、治療成績がずいぶん違うのだそうだ。これに似ている。

そんな風に考えていくと、薬や疾病についてよくわかっていないで処方しているのが良くないのかもしれない。このような経験からも、うちの病院は「他に実在しない」まではないかもしれないが、きっと上位1%には入る病院と感じたのである。

参考
非定型抗精神病薬の病状悪化率
24年ぶりの退院