ルジオミール、アモキサン、アンプリット
僕は、うつ状態の初診でこの薬から始めるという決め方はしていない。ただ、過去にはルジオミールばかり処方していた時期と、アモキサンばかり処方していた時期がある。最近は、ルジオミールはあまり処方しなくなってきている。新規でこれを処方するタイミングが全然ないからだ。ルジオミールは眠いが、それ以外にこれは困るという副作用が少ない。眠さ以外は大人しい薬物なのである。けいれんについては注意したいが、この頻度もそう高いものではない。(ルジオミールの過去ログ参照)
ルジオミールばかりアホみたいに処方していると、150mgまでに決着することが多いことに気づく。これを服用できる人なら、徐々に増やしていけば何とかなる人が多かったのである。治り栄えもわりあい自然で、西日本でかつて最もよく処方されていた薬だけはあると思う。薬物プロフィール的には、ルジオミールにはセロトニンにはほとんど関与していない。SSRIのまったく逆なのである。穏やかな効き味でしかも鎮静的なので、僕はアモキサンより躁転が少ないように今では感じる。なんだかんだ言って、僕は最もアモキサンで躁転に見舞われている。またルジオミールは4環系抗うつ剤なので、自律神経系副作用(口渇、起立性低血圧、便秘)が比較的少ない。とはいえ、個人差があって辛さを訴える人もいる。同じ、眠い系の抗うつ剤でもトリプタノールよりは自律神経系の副作用は少ない。
アモキサンは薬物プロフィール的には、強いノルアドレナリン系の作用を持つがセロトニンにも少し作用がある。この薬は旧来の中でもアップ系と言われる。日本人好みの薬のように今では思える。アモキサンでうまくいくと、本当に本来の自分に戻れるし、人によればプチ躁転(いわゆる双極2型の軽躁状態)を起こし、この時、本人は完全に治ってしまったと思う。本人は、精神科に来たことや僕にとても感謝する(プチ躁転している状況は、もちろん素直に喜べない)。
「あなた、本来の自分とはちょっと違うと思わない?」
と僕は思うのだが、この程度のプチ躁転では、本人はうつが全快したとしか思わないのである。あと、プチ躁転したことは、本人の診断が広い意味の双極性障害(2型)であることを十分に疑わせるので今後の治療の参考になる。アモキサンは猫も杓子にも処方していると、その効果の速さと切れ味の良さに感動する。やはり抗うつ剤はこうでないとと思う。アモキサンは、実は300mgまで処方できるが僕は150mgまででやめることが多い。というのは、アモキサンはやはり旧来の薬物なので、抗コリン作用があるし、そこまで処方するのはやや辛い面がある。200mgくらいは処方したことがあるが、300mgまで処方したことは僕はほとんどないような気がする。
アモキサンは効く人は50mgでもまあまあの効果が出る。経験的には50~100mgくらいで決着することが多いし、150mgまで必要な人はわりあい少ない。150mgを超える量が必要っぽい人はややアモキサンが向かないと思う。友人で、境界型人格障害にアモキサン300mgを処方しているなんて聞く事があるが、やや危険ではないかと思う。300mgまで行くところが真のうつ病とは違っているように思う。
アモキサンはルジオミールと同様、けいれんの副作用があり、てんかんの人のうつ状態の治療には避ける方が良いとされている。アモキサンは、時に全然服用できない人もいる。不安焦燥感が生じて悪化する人や、不均衡にアップするため不眠になる人もいる。抗うつ剤はSSRIも含め、どの薬にも不眠の副作用は生じうる。
アンプリットはおとなしい薬である。僕はあまりアップしなくてよいけど、まあまあの抗うつ効果を期待するときに処方する。最初からは滅多に処方しない。アンプリットはちょうどルジオミールのように、ノルアドレナリンにのみ作用する。しかもこの活性代謝物のデシプラミンは強いノルアドレナリンの再取り込み阻害作用を持つ(アンプリット参照)。ルジオミールの眠さと抗うつ作用を減じて、服用しやすくしたような薬物に見える。アンプリットは全般に3環系抗うつ剤に見られる副作用が少なく、なぜか効果の発現が早い薬物なのである。
アンプリットは効果が弱いので、すぐに150mgまで行ってしまう傾向がある。なぜなら、この薬を処方しようと思うような患者さんは、既にいくつかの薬で無効だったか、または副作用で飲めなかったか、という経緯があることが多いからだ。難治性の患者にアンプリットはやや力弱いと言わざるを得ない。モーズレイのガイドラインでは、うつ病にはトリプタノールやノリトレンは150mgを上限にしているのに比べ、アンプリットは210mgまでになっている。こういう点でも少し力価が低いと考えられていることがわかる。アンプリットは、3環系にしては忍容性が高いので結果的に高用量が服用できて、高力価の抗うつ剤よりも効果的というケースはある。
6~7年前に紹介された年配の女性患者は激越型のうつ病で、当初は電撃療法を選択。退院時はアンプリット150mgだったが後に一度だけ会う機会があり、その時は75mgだった。僕の親類もアンプリットで治療したと書いたことがあるが、今は150mgである。
最近の新患は、なぜか50mgですがすがしいほど良くなったがたまにはこういうこともある。ずっと往診している老人の女性は(80歳を超えているが)、アンププリット100mgで精神症状も良いし副作用も便秘くらいしかない。この往診の患者さんの場合、SSRIの後すぐにアンプリットを選択した。これはアンプリットの副作用の少なさを考慮している。アンプリットは3環系にしては切れ味は鋭いまではないが、マイルドで老人にも処方しやすい薬物と思っている。またわりあい食欲亢進や体重増加も少ないので女性向けでもある。
とにかく昔はうつ病の第一選択薬にしていたドクターもいたほどの薬なのである。ダメな薬なわけがない。あと補足として、アンプリットは過量も比較的安全と言われるので、大量服薬の懸念がある人では他の3環系よりはちょっとだけ処方しやすい面があると思っている。
参考
ルジオミール
アモキサン
アンプリット
アナフラニール、トリプタノール、ノリトレン