初診時精神所見
初診時精神所見(本人17歳)
家族同伴来院。従兄弟の就職の話と偽って病院に連れてきたという。待合室では無遠慮に椅子にかける。無欲状、空虚な表情。表情に暗さや硬さは認められない。問いにはよく答える事ができるが、やや困惑しており記憶違いが多い。診察室に案内すると素直についてくる。注射を勧めると、「痛いからイヤ」と甘えたような口調で言う。なだめすかして、なんとか注射する。(以下略)
これは、昭和40年代に初診した男性患者さんの精神所見。当院の先代の院長による記載である。シンプルでうまく書けている。これだけ短い所見だけど、文章は僕よりずっとうまいよ。
どこがうまいかというと、この少年が病院に来た時の様子をありありと思い浮かべることができるところ。この人は今はこんな感じだけど、病院に来た時はこんな風だったんだ、というのがわかるのがいい。
この患者さんは初診以後、入退院を繰り返し昭和50年代からずっと入院している。病状は良かったり悪かったり。病棟では、独語、空笑、放歌、支離滅裂な日記を書く、などがみられていた。あと悪いときは妄想的な解釈から他患者への暴言や、まずくすると暴力などもあった。
一昨年くらいに保護室に入るほど病状が悪化して、その時に根本的に薬を入れ替えた。今は開放病棟で療養しているけどわりあい落ち着いている。今は、あまり険しい顔つきはしていないし、診察時もゆっくりと落ち着いて話が出来る。外泊も可能だ。
現在の処方(2007年4月)
リスパダール 3mg
クレミン 200mg
トロペロン 6mg
タスモリン 3mg
で他に下剤、睡眠薬程度。
数年前の処方は、
2002年1月
セレネース 20mg
レボトミン 250mg
リスパダール 8mg
タスモリン 3mg
ヒベルナ 100mg
2005年1月
リスパダール 3mg
トロペロン 18mg
タスモリン 3mg
ヒベルナ 75mg
ニューレプチル 75mg
この患者さんは、ジプレキサ、セロクエルで病状悪化を来たしていた。特にジプレキサは酷い悪化になるので使えない。ルーランでもなんだか妙に賦活して良くないのだ。オーラップも幻聴が悪化するため中止した経緯がある。リスパダールは悪化はしないけど、あまり見た目にも内面もたいして改善はしないのよね。今の処方はクレミンがメインになっていて、これでも過去の治療よりはずっと良い。この方が陰性症状にもけっこうプラスなのである。
クレミンはずっと数十年入院している重い患者さんに150mg以上処方すると、以前より良くなることがある。150mgと200mgではえらい違いで、200mg以上になって初めて効果が明瞭になるのをこのクラスの患者さんでは時々経験する。現在の処方だけど、どうもリスパダールは必要ないような。リスパダールは減らしたいけど、現況、調子が良いのでそのままにしている。トロペロンはこの患者さんの場合、最低このくらいはいれておかないと話にならないような(脳内がニャンニャン状態になるので)
こういう患者さんの場合、何か1つの薬物でやろうとすると、けっこう無理するというか難しい。クレミンに加え何か他の薬物を使うと、バランスがとれてわいあい院内適応が良くなることが多い。これって、やはり本人の人間関係が良くなるからなんでしょうかねえ。内面も少し良いように思うけど。外界への対応というか接触性みたいなものをクレミンが改善して、異常体験をトロペロンのような強力な抗精神病薬が補助しているといった感じかもしれない。
うちの病院ではクレミンで、もうどうしようもなかった人が以前よりマシになり、開放病棟処遇が可能になったとか、保護室に入らなくて良くなったとか、そんな人が多い。そのように激変させるような薬物は、本当に限られているが、クレミン、エビリファイ、ジプレキサは可能性を秘めた薬物なんだと思う。
参考
クレミン
エビリファイ
ジプレキサ
リスパダール