家族 | kyupinの日記 気が向けば更新

家族

昨年、90歳を過ぎて亡くなった女性患者さんがいる。もう数十年入院していて、最後は老衰のような亡くなり方だった。

統合失調症は徐々に死ぬ疾患であり、ただそのスピードがあまりにも遅いために、みなそのことに気がつかないだけ、というようなことを書いている本を読んだことがある。しかし、僕はその説には同意できない、というよりも議論がずれていると思う。

統合失調症は病期中に自殺とか、あるいは突然死で亡くなるケースがある。また、タバコを吸い過ぎるとかコーラ、コーヒーなどの嗜好品のために糖尿病などで寿命が縮まることは確かにある。でも、そのようなことは一般人でも言えることで統合失調症以外の疾患と結びつけるのはいかがななものかと思う。統合失調症が直接の死因になっていないからである。長く入院療養している人たちは、酒は飲まない、暴飲暴食もしないで、普通、タバコ以外はかなり健康的な生活である。

その女性患者さんは子供が2名あり、ある最高学府を卒業していた。年に2回くらい病院にお見舞いに来て、1週間くらい滞在していた。滞在先はホテルとかウイークリーマンションを利用し、ちょっと1~2時間だけ面会するようなものではないのである。普通、このような会話も十分にできない人のベッドサイドに1週間もつく人はなかなかいない。

本人はどんな風だったかと言うと、全然喋らないような人で、話しかけても最小限、片言しか会話ができなかった。2000年頃、最初にこの患者さんを診た時、大人しいけどいつも不機嫌だと思った。そこで、薬をリスパダールに変更したところ、その不機嫌さが消え、わりと笑顔が増えて表情が柔らかくなった。リスパダールの量もいつも2mg以下しか処方していなかった。僕が診始めたのはもう90歳近くだったが、この当時は自立歩行もできていた。

晩年、食欲がかなり落ちてきたので、リスパダールをジプレキサに変更してみたら、同じように良かった。この患者さんに関しては、リスパダールもジプレキサも同じような効き方だった。次第に衰弱が進み、食事がほとんどとれなくなり、点滴のみでいわゆるナチュラルコースとなった。家族が高齢でもあるし、転院してまでの治療は望まれなかったからだ。

いつ亡くなるかわからないような状態になったので、患者さんの子供たちを呼んだが、同じような状態が何日も何週間も続いた。ある日、その息子さんが仕事の都合で、どうしても自宅のある県に戻らないといけなくなった。

息子さん、
「2~3日どうしても自宅の方に帰らないといけなくなりましたが、その間は大丈夫でしょうか?」

僕は、
「大丈夫です。息子さんがたまたまいない時に亡くなるなんてありえません。きっと待ってくださいますよ。」

と本当に言ったのである。僕は100%間違いないと思った。僕の考える人生観からも、そんな風になっていると思う。

この患者さんは、まさに老木が倒れるように2人の息子さんに見守られて亡くなった。