ジプレキサの奇跡的な効き方について | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサの奇跡的な効き方について

ジプレキサは、効く人は見違えるように効く。まさに奇跡的。

今から7~8年くらい前だと思うが、デイケアで温泉に行くことになったので一緒について行った。その温泉は有名な旅館の岩風呂で、温泉だけなら500円程度で入れた。風呂に入りながら僕を含め3人で話をしていた。目の前の若い男性患者は20代半ばくらいと思ったが、自分の担当ではないので顔だけはわかるが、詳しいことは知らなかった。友人からは、統合失調症と聞いていたが、まだ発病して時間が経っている感じではなかった。

その患者さんと、もう1人自分も診察したことがあるボーダーラインの男性患者さん。温泉に入りながら長いこと話していたのである。

その時思ったこと。
目の前の男性患者さんは統合失調症なのだが、ボーダーラインの男性の方が病気の程度は重い印象。話している内容や表情でわかる。その統合失調症の患者さんはわずかに困惑模様であった。ごく軽度の亜昏迷なんだろう。このような症状や周期的な眠さがある患者さんは機能的な予後が良いと思っている。意外だが、意識が清明に見える人より予後は良いのである。(注:昏迷は意識障害ではない)

この時、僕は気にならなかったが、その目の前の患者さんがタメ口で話していたのが、ボーダーラインの患者さんは気になったらしい。「○○先生は、先生ぞ!」と言ったのである。もちろん僕のことだ。彼はびっくりしたような顔つきになり、急に立ち上がり、恐縮して「スイマセン」と謝ったのである。僕がドクターとは知らなかったらしい。別に謝らなくても良いけど、患者さんと間違われたのがそれはそれでショックだったり。歳がすごくは違わないので、見た目、そういう風に喋られても仕方がない。

ところで、彼はIT関係のプログラマーでかなり能力が高かったのだが、病気になって退職していた。統合失調症の場合、病前の仕事がどのような内容のものかで社会的予後が違ってくる。例えば、プログラマーとか銀行員は要求水準が高すぎて、不完全状態では復帰が相当難しい。

職場的には、窓際的なポジションがあったほうが良いのである。その点、公務員は恵まれている。時間を稼ぎつつ回復を待てるから。男性と女性では女性の方が予後が良いのは、こういうことも関係している。社会的に要求されることが違うからだ。

その後、僕がその病院を退職したこともあり、消息がわからなかった。数年後、主治医だった友人と会った時、この人のことが話題に上がった。彼によれば、その男性患者さんはほぼ完全に復活したのだという。ジプレキサで。

今、思い出したが、その人に電撃療法をするかどうか迷った局面があった。その友人は電撃療法の時は僕に任せるのである。なぜかと言うと自分はしたくないから。いかにも効きそうだけど、あまりに病前の能力が高いので迷った記憶がある。

僕は電撃療法で崩れない病型なら、電撃療法の後、能力が落ちるなんてことはまずないという感覚がある。一時的な健忘があるだけだ。結局、手をこまねいていても埒があかないので、本人にするかどうか聞いてみた。本人が任せるというので、数回だけかけたのである。このまま能力低下のまま時間を費やすより、何かトライしていった方が時間の損失がないということもあった。予測していた通り、亜昏迷~困惑というか、いつもぼんやりしている感じがかなり減少した。が、すべてが改善したわけではなかった。

ジプレキサは2001年に発売されている。友人が彼に処方したところ、見違えるように回復していったらしい。発売年を考えると、温泉の時期と時間的な計算が合う。その後、彼は途中入社できる会社を探し退職になった会社とほぼ同じかそれ以上のクラスの会社に入社を果たしたらしい。

うちの病院では、これは絶対無理と思えるような患者さんで、神がかり的に良くなった人たちを挙げていくと、30%くらいは電撃療法を実施している。電撃療法をしたから長期予後が悪いと考える人がいるとしたら、それは間違っている。

うちのデイケアのメンバーさんにも同じような職種だった人がいる。彼は素晴らしい特許も取った?らしいのだが、発病があったこともあり、ドサクサに紛れてその特許は会社のものにされてしまった(今でもそんなトラブルがあるでしょ)。

彼には数年前にジプレキサを使い始めてすべてが変わった。能力が復活してきたのである。ちょっと思うのだが、この人は、はっきりした被害妄想がなくて、あまり意味のない幻聴や、誰かに見られている感覚、全身倦怠感や意欲低下などが前景だったので、回復の余地が大きかったような気がする。決して奇妙な印象はなく病状が固まっていないのである。

それまで10年以上、引きこもり状態で何もできなかったが、ここ数年はなんでも普通にできるようになった。去年だったか大学恩師に頼まれ上京し、数週間ほどコンピュータ系の仕事の手伝いをしたという。

先日、デイケア室に行ってみたら、他の患者さんに頼まれて、英文サイトで買い物をするのを手伝っていた。パソコンの扱い方というか、姿勢すべてが絵になっている。普通の患者さんと全然違うのである。

しかし、彼はもう障害年金を貰っており、あまり再就職をする気はないらしい。これは年齢的なものもあるのかもしれない。この男性患者の場合、年単位で今でもなお改善しているように見える。1年前や2年前に比べてもすいぶん良くなっているのがわかる。

たぶん僕が彼のことを知らなくて、偶然町で出会って話をしても、今なら統合失調症だと見抜けないと思う。この患者さんの治り方はすごいが、こういうのは神がかり的とは言わない。なぜなら、ジプレキサを処方すれば誰がやってもこうなっているから。優れた薬物は、同じようなやり方で、たくさんの人の治療ができるのが良い。

非定型抗精神病薬ではジプレキサやセロクエルなど、数ヶ月して更に大きく改善する場合がある。やはり、このあたりの非定型抗精神病薬は別格と思うのである。このようなグルタミン酸系にかかわっているかもしれない薬は、対症療法ではなく、根本的なものに関与しているのではないかと思ってしまうのは、こういう症例を経験するからなのである。