老年期のうつ病は | kyupinの日記 気が向けば更新

老年期のうつ病は

週に1度、近くの総合病院に往診に行っていることは以前にも書いたことがある。もう70過ぎの女性患者を治療していたのだが、初診時はうつ状態でほぼ寝たきりに近い状況だった。年初には庭で草取りもしていたくらいなので、機能的なものが原因であるのはほぼ間違いなかった。内科医はデプロメールを処方していたが、効果がないか量が少なすぎるといえた。老人のうつ状態にデプロメールで治療を試みるのは基本的に正しい。

老人でほぼ寝たきりや車椅子で動けない場合、しかも脳卒中の後遺症や認知症がない時、治療の道筋はいくつかある。老人の場合、意外に意識障害が遷延しているケースがあり、治療のやり方にもよるが劇的に治ることもある。ある男性患者で、2年間、車椅子やベッド上で動けず、食事も摂らないので経管栄養になっている人がいた。この患者さんは意識障害の治療を行うと、とても元気になり歩行も可能になって退院した。その患者さんの奥さんに非常に喜ばれた記憶がある。ちょっと不思議なのは、この患者、2年間も寝たきりに近かったのに、足の拘縮が来ていなかったこと。老人の場合、動けない状態が長く続きすぎると、看護にもよるが精神面で良くなっても足の拘縮でADLが回復しない場合も多い。

今回の場合、内因性うつ病(老年期うつ病)ははっきりしているので、抗うつ剤でなんとかなる可能性が非常に高いといえた。当初、デプロメールを中止しアモキサンを処方した。内因性うつ病なので、この方が手っ取り早いと思ったためだ。すると少し食欲が良くなり多少は発語が増えたが、口渇があまりにひどく舌が真っ赤になるほどであった。

「アモキサンはダメだ・・」
一般に老年期のうつ病は、消化管にまつわる荒唐無稽と思えるほどの心気妄想が出現することがある。例えば執拗な入れ歯の不具合、痛みの訴えや、平凡な胃痛や腹部周辺の疼痛、あるいは肛門の訴えのこともある。老年期はそういう風になっているというか、脳の老化のためそういう妄想が出やすいのだと思う。この患者さんの場合、もともと上部消化管に心気的訴えがあるので、この副作用はそれに拍車をかけてしまう。

結局、いったん旧来の抗うつ剤は撤退し、ジェイゾロフトで治療を試みた。50mgまで増量して思ったのだが、SSRIのようにもともと胃痛とか下痢とか出てきやすい薬物はこういう人には合わないね。それと、この老人のうつ状態に効果が弱いと思った。一時、パキシルも処方してみた。なぜなら、下痢などの副作用はパキシルの方がむしろ少ないくらいだから。しかしSSRIで治療を継続するのは無理だったのである。

その後、アンプリットで治療を行うことを決断。アンプリットは旧来の3環系抗うつ剤だが、副作用は少ない。25mgくらいから始め、50mgくらいに増やした時、全般に動けない状況が改善、会話もかなりできるようになった。この時、アンプリットを増やせばいけるのではないかと思った。この時、内科的には入院しなくてもよい状況になっており、退院することになった。精神科に転院して治療を継続すれば、今よりも改善する可能性が高いことを内科主治医に伝え家族にも薦めてもらった。その後、すぐに受け入れられ、12月の中旬にうちに転院した。現在アンプリットは100mg処方している。感覚的にはトリプタノールとかトフラニールに例えると70~90mgだと思う。(アンプリットは3環系の中ではやや弱い) 不思議と副作用が少なく、経度の口渇と便秘くらいしかない。

現在、うつ状態はほとんどなくなり今は矍鑠としている。病棟で椅子に座っている時の姿勢が違う。毎日、歩行練習を行っているのである。リハビリする環境なら元の総合病院の方がずっと良いので1月にまた転院させる予定で、もう日程も決まっている。