統合失調症の患者さんの服薬中断
もう数ヶ月前になるが、あるデイケアのメンバーさんが薬を全然服用していないことが判明した。病状はどうだったかと言うと、やや多弁で、表情は硬いが、もうずっとそのようなハイテンションな状態が続いていたので、それほど悪いとは皆から思われていなかった。しかし、長く入院生活をしていたような人ではあるし、以前一度措置入院もしているので、そのまま飲まなくても良いというわけにもいかない。退院時、ずいぶん家族から反対があり、毎日デイケアに参加させるし、悪くなればすぐに対応すると伝えてなんとか退院の了解を得たような経緯があり、病院にもある程度責任があるのである。服用していた薬物はルーラン16mg(8mgを2錠)。これだけしか服用していないのに、やめようと思うのが僕の感覚ではちょっと理解しにくいところはある。いったい、どのくらい薬を服用していなかったかと言うと、1年7ヶ月。よくもまあそんなに長い期間、服用せず、なんとかなっていたものである。
統合失調症の人で、長い経過で服薬中止が可能かどうかだが、これにはいくつか研究がある。日本ではありえないが、海外では初回統合失調症エピソードの後に、抗精神病薬とプラセボという風に患者さんを2群に分けて治療を継続するという過激な調査が行われている。なぜ日本ではありえないかと言うと、統合失調症を更に悪くさせるような調査は人道的に到底できないという感覚があるからである(訴訟になりかねない)。だいたい統合失調症は治療をせずに手をこまねいていると、取り返しのつかないことになる場合もある。このような海外の調査によると、プラセボ群では服薬群よりはるかに再発率が高くなっている。
初回の統合失調症エピソードの後、薬物治療を中断すると、80%以上の患者さんが5年間、多くの場合は3年以内に再発するといわれている。だから、上のデイケアの患者さんが1年7ヶ月間、服薬をやめていて、しかも大きな破綻を来たさなかったのは、そんなこともありうるのがわかる。統合失調症で、服薬をやめて十分問題ない人も稀にいるが、これは病型が統合失調症ではなかったかもしれないと言う考え方はある。仮に、統合失調症の患者さんのほんの一部が服薬をやめても問題ないとしても、事前の予測は難しい。
一般に、統合失調症の場合、初回エピソードは良くなりやすい。これは現在の薬が良くなっているのももちろんあるが、30年くらい入院している人の古いカルテを見てみても、初回は寛解して数年就労していたと言うのはけっこう多い。統合失調症の場合、初回エピソードの後の身の振り方が長期予後を決めるとも言える。統合失調症の場合、寛解増悪を繰り返していると、ある増悪エピソードの際に元に戻れなくなることがある。そういう風にある時大きくこじらせて何年も入院する事態になるのである。そういうこともあり服薬を中断して様子をみると言うのはあまりにもリスクが大きすぎる。
2大内因性精神病は統合失調症と躁うつ病である。躁うつ病は書物を読むと、「躁病エピソードは欠陥症状を残さず寛解する」とあるが、あれは、全くの間違いとまでは言わないが、やや間違っている書き方で本当は躁病エピソードは完全に寛解するとはいえない。なぜかというと、躁病エピソードは、やはり脳の病気だから。繰り返して良いはずはない。どのような欠陥症状が残るかと言うと、回復しても、成績が以前より下がったり、集中力や根気がなくなったり、うっかりのミスが増えてしまったり、細かいレベルではやや能力が落ちているような感覚が残ったりする。僕は、医局時代、「躁病エピソードは欠陥症状を残さず寛解する」というのは、はっきり間違いと教えられた。まあそこまで言わなくても、躁病エピソードを繰り返すのは、決して脳に対して好ましいことではないというくらいは言えると思う。まして、統合失調症の増悪は繰り返して良いわけはないのである。そういう意味から、統合失調症の薬物中断は良い結果が得られることが少ないことがわかる。
最初に挙げたデイケアのメンバーさんだが、なんとか説得して薬を再開した。家で服用するのはアテにならないので、デイケアの参加時(週5回)のお昼に1回服用させることにした。休みの日は服薬を諦めた。最初、ルーランを8mgくらい再開したが、眠さやきつさが出て継続し難いことが判明。本人が辛いというので、1日4mgだけ服用することに決めた。当初、4mgでもやはり眠さが出た。この人、こんなに薬に弱い患者さんだったかな?と思ったが、やはり1年7ヶ月も中断していたのが大きいのではないと。結局、それから4ヶ月経つ。今では、服薬していなかったときよりはるかに良い。どの点が良いかと言うと、特に目立つのは顔が柔和になった。今考えると、服薬していなかった時はやや怒りっぽかったと思う。ルーラン4mgでこれほどの効果があることにちょっと驚いている。服薬中断はリスクは高いが、大きく減量するという方法は、まだ可能な選択肢だと思える。
さて、現在、その患者さんはもう薬を飲みたくないとは言わない。理由は2つ。当時、薬を飲まなかった人はその人を含め2名いたが、1名は再入院になった。そのように、自分はたまたま良かったが、再入院になりうることを目撃していること。もう1つが以前に比べ、服薬の量が4分の1になり、副作用の程度も本人の納得できる範囲になったこと。最近の言葉で言えば、アドヒアランスが良くなったとでも言えようか。
統合失調症の人で、長い経過で服薬中止が可能かどうかだが、これにはいくつか研究がある。日本ではありえないが、海外では初回統合失調症エピソードの後に、抗精神病薬とプラセボという風に患者さんを2群に分けて治療を継続するという過激な調査が行われている。なぜ日本ではありえないかと言うと、統合失調症を更に悪くさせるような調査は人道的に到底できないという感覚があるからである(訴訟になりかねない)。だいたい統合失調症は治療をせずに手をこまねいていると、取り返しのつかないことになる場合もある。このような海外の調査によると、プラセボ群では服薬群よりはるかに再発率が高くなっている。
初回の統合失調症エピソードの後、薬物治療を中断すると、80%以上の患者さんが5年間、多くの場合は3年以内に再発するといわれている。だから、上のデイケアの患者さんが1年7ヶ月間、服薬をやめていて、しかも大きな破綻を来たさなかったのは、そんなこともありうるのがわかる。統合失調症で、服薬をやめて十分問題ない人も稀にいるが、これは病型が統合失調症ではなかったかもしれないと言う考え方はある。仮に、統合失調症の患者さんのほんの一部が服薬をやめても問題ないとしても、事前の予測は難しい。
一般に、統合失調症の場合、初回エピソードは良くなりやすい。これは現在の薬が良くなっているのももちろんあるが、30年くらい入院している人の古いカルテを見てみても、初回は寛解して数年就労していたと言うのはけっこう多い。統合失調症の場合、初回エピソードの後の身の振り方が長期予後を決めるとも言える。統合失調症の場合、寛解増悪を繰り返していると、ある増悪エピソードの際に元に戻れなくなることがある。そういう風にある時大きくこじらせて何年も入院する事態になるのである。そういうこともあり服薬を中断して様子をみると言うのはあまりにもリスクが大きすぎる。
2大内因性精神病は統合失調症と躁うつ病である。躁うつ病は書物を読むと、「躁病エピソードは欠陥症状を残さず寛解する」とあるが、あれは、全くの間違いとまでは言わないが、やや間違っている書き方で本当は躁病エピソードは完全に寛解するとはいえない。なぜかというと、躁病エピソードは、やはり脳の病気だから。繰り返して良いはずはない。どのような欠陥症状が残るかと言うと、回復しても、成績が以前より下がったり、集中力や根気がなくなったり、うっかりのミスが増えてしまったり、細かいレベルではやや能力が落ちているような感覚が残ったりする。僕は、医局時代、「躁病エピソードは欠陥症状を残さず寛解する」というのは、はっきり間違いと教えられた。まあそこまで言わなくても、躁病エピソードを繰り返すのは、決して脳に対して好ましいことではないというくらいは言えると思う。まして、統合失調症の増悪は繰り返して良いわけはないのである。そういう意味から、統合失調症の薬物中断は良い結果が得られることが少ないことがわかる。
最初に挙げたデイケアのメンバーさんだが、なんとか説得して薬を再開した。家で服用するのはアテにならないので、デイケアの参加時(週5回)のお昼に1回服用させることにした。休みの日は服薬を諦めた。最初、ルーランを8mgくらい再開したが、眠さやきつさが出て継続し難いことが判明。本人が辛いというので、1日4mgだけ服用することに決めた。当初、4mgでもやはり眠さが出た。この人、こんなに薬に弱い患者さんだったかな?と思ったが、やはり1年7ヶ月も中断していたのが大きいのではないと。結局、それから4ヶ月経つ。今では、服薬していなかったときよりはるかに良い。どの点が良いかと言うと、特に目立つのは顔が柔和になった。今考えると、服薬していなかった時はやや怒りっぽかったと思う。ルーラン4mgでこれほどの効果があることにちょっと驚いている。服薬中断はリスクは高いが、大きく減量するという方法は、まだ可能な選択肢だと思える。
さて、現在、その患者さんはもう薬を飲みたくないとは言わない。理由は2つ。当時、薬を飲まなかった人はその人を含め2名いたが、1名は再入院になった。そのように、自分はたまたま良かったが、再入院になりうることを目撃していること。もう1つが以前に比べ、服薬の量が4分の1になり、副作用の程度も本人の納得できる範囲になったこと。最近の言葉で言えば、アドヒアランスが良くなったとでも言えようか。