「揺れますよ〜!」



「島根県出雲市から大阪まで移動したい」その移動手段について尋ねると、電車での移動手段しか知らない私に出雲の人は「揺れますよ〜!」としかめっ面で声をそろえる。ならば乗ってみようじゃないか。こうして私は特急『やくも』での移動を決めた。



出雲市から大阪への移動手段の一つに電車移動がある。出雲市から岡山までは特急に乗り、岡山から大阪までは新幹線を利用する方法だ。他にバス移動もあるのだが、私はそれを知らず、予約しようとした時にはすでに満席だった。バスならば大阪まで乗り換えなしで行ける。飛行機での移動方法もある。



特急『やくも』はいわゆる「振り子特急」だそうで、振り子特急乗車ならば私には経験があった。札幌から釧路までの特急『スーパーおおぞら』である。たしかに揺れた。車両が斜めになる感覚があって、少々具合が悪くなった。今から何年前のことだろう?



2018年2月17日、土曜日早朝。時刻は午前7時15分。出雲市駅。前日のうちに切符は買っておいた。3枚の切符を片手に私は駅員に質問をする。「どれを改札に通せばいいですか?」「これとこれを通してください。岡山駅では3枚全部通してください」言われた通りに2枚の切符を入れ、無事改札を通り抜けた。



午前7時18分。特急『やくも』に乗車する。指定席の予約時には満席に近かったのに車内はガラガラである。まるで貸切だ。一体どこから大量の人が乗車するのか。これからが楽しみである。



ちなみに、特急『やくも』には変な席がある。なんでここだけ一人用? 謎である。

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6番車両前方3列目。

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一人席の横は案外狭い。幅40cmくらいだろうか。




松江駅までは各駅停車なのか、ちょこちょこ電車は停止する。今のところ揺れは感じない。一体どこから揺れ始めるのか?



車窓から見える宍道湖をのんびりながめていると、松江駅に到着した。時刻は7時50分。いきなり都会の様相だ。建物がいっぱい建っている。ぱらぱら人が乗ってきた。車両の半分くらい席が埋まった。まだこの先の駅で人が乗ってくるのだろう。



都会を一気に通り抜け、緑あふれる東出雲を走る。田園風景が広がる。密集した木々が線路に覆いかぶさるように茂っている。瓦屋根の民家が建ち並ぶ。左の窓からまた湖が見えてきた。朝の青白い空に、もくもく雲が浮かんでいる。



8時8分、安来駅に到着。人の動きはほとんどない。



8時16分。米子駅に着いた。ここでようやく私の周りの席が埋まり始めた。一人席にも誰かが座った。そういえば、この駅なら利用したことがある。東京新宿からバスで来た時のことだ。



あの時は早朝に着いてしまい、時間つぶしのために駅前でカフェを探した。しかしカフェなどどこにも見当たらず、やっとこさ喫茶店を探し当て、そこへ入ってみた。おいしい朝食をいただいた。



トイレに行こうとすると「故障している」と言われた。「あなたはどこで用を足しているのですか?」と尋ねると、米子駅のトイレを使っているという。仕方なく私は店を出て駅へ向かった。7時半くらいになっていた。朝っぱらから喫茶店のはしごをした。そんな、米子駅の記憶である。



ふと顔を上げ左の車窓に目を向けると、そこには富士山のような山があった。あれはなんだ? 山は朝日を背負い、雲がかかっている。神秘的だ。先程の駅は「伯耆大山駅(ほうきだいせんえき)」という名前だったから、あれが大山なのだろうか?



少し先の山の中を走ると、雪景色が視界に広がった。そういえば……2018年2月7日、その日出雲市は大雪に見舞われた。日本海側の積雪がすごかった日である。駐車場から車を出せない、身動きが取れない、と会社を休む人が続出したようだ。その雪がまだここらには残っているのだ。ちなみに10日程経過した今日、出雲市駅周辺は道路脇に雪の塊がある程度だった。



いよいよ揺れる山道に突入か? 電波が悪くなってきた。雪景色はまだ続く。



根雨駅に着いた。ああ眠い。まぶたが重い。おそらくこれから揺れるだろうに、私は起きていられるのだろうか? 只今の時刻、8時50分。2分後に電車はホームを離れ、さらに雪深い地域に来た。雪が降ってる? 舞っているだけ? 外は真っ白、寒そうだ。トンネルをいくつもくぐる。なんとなく電車が左右に揺れ始めた気がする。でもまだ特に、具合は悪くない。



少し眠ってしまった。時刻は9時21分。足立駅に着いた。ここでは完全に雪が降っている。



山道を走る。電車が左右に傾く。おお、これか!これがみんなのいう揺れなのか? 電車が左右に大きく振れる。しかし私には特にひどい揺れには感じなかった。期待していただけに、この程度の揺れなのかと少し落胆した。



9時33分。まもなく新見駅に到着する。目的地の岡山駅まであと1時間ちょっとだ。この後さらに大きな揺れがくるのだろうか?



9時52分。太陽がまぶしい。雪景色はどこへやら。密集した木々とのどかな田園、それらが光を受けて輝く。白を基調としたスキーウエアのような出で立ちで右隣に座る女性が、まぶしそうに目を細めている。瓦屋根が光る。水面が光る。木野山駅を通り過ぎる。もうすぐ備中高梁(びっちゅうたかはし)駅。岡山県に突入だ。



相変わらず、電車は山道を走り続けている。何度もトンネルをくぐる。電車は左右に揺れる。ガタガタする。たしかに揺れるけれど、私にはむしろその揺れが妙に心地よく、ひたすら眠気に襲われた。そして、少し眠った。



10時22分。倉敷駅に着いた。反対ホームでは、素足にミニスカート、ロングブーツのお姉さんが寒そうに電車を待っている。蝶ネクタイをしたおじさんもいる。微動だにせず、まぶただけ動かずおじいちゃんもいる。倉敷にはいろんな人がいる。



もうすぐ岡山駅に着く。結局、揺れは上記の通りであった。



結論。
特急『やくも』は揺れるけれど、イヤな揺れではなかった。



私は東京在住で、普段からよく電車に乗っている。月に数回、特急、新幹線、飛行機にも乗る。しかし出雲の人は車で移動する。そもそも電車に乗る機会が少ない。そこに感じ方の差があるのではないか? 私はそう推測する。



結局私は一度も具合が悪くなることなく岡山駅に着いた。『スーパーおおぞら』で酔ったのも、あの頃は電車に乗り慣れていなかったせいかもしれない。今はそう思える。



人の感じ方は様々であり、「それに慣れているかどうか」ということが大きく関係してくるのではないか。これが、特急『やくも』の揺れについての検証で私が得た結果である。