私はオフィスにいる。お気に入りの、ピンク色のウールが張られた椅子の座面に腰をかけ、目の前にあるハートの形をしたベンジャミンを見上げる。
大きなテーブルの真ん中に穴があるので、その穴に頂き物のベンジャミンを置いてみた。ああ、いい。すごくいい。ここはカフェなの?そんな錯覚に陥る。
毎日繰り返し見ていた。仕事の合間にふと顔を上げると、そこにはいつも緑がある。その瞬間を、私はとても大切にしている。
ある日、いつも完璧な緑色であるベンジャミンに黄色いものが混じっていることに気づいた。おもむろに枝を揺すると、葉っぱがバラバラバラバラ落ちてきた。床にたくさんの葉が落ちる。黄色い葉が落ちている。
枯れている。ベンジャミンが枯れている。イヤだ、このベンジャミンはこんなにかわいいのに。このまま枯れてしまうなんて絶対にイヤだ。
そう思ってちょこちょこ水をやっていたのに、葉が黄色くなるのをなぜか止められない。枯れる。枯れ続ける。水以外に何をやればいいのか?毎日毎日気になって仕方がない。
ある土曜日のこと。いつもは休みだけど、有休をとる前に休日出勤することにした。いつもの空間に社員は私ひとり。なぜかゆったりした気持ちになる。そうだ、植物の手入れをしよう。
入口、壁沿い、テーブルの横。あちこちに観葉植物が置いてあるので、それぞれの鉢に水をやって回った。枯れた葉をつけている枝の根元に、1.5リットルのペットボトルいっぱいに入った水を注ぐ。思い切って全部注いでみた。あら?あっという間に土が水を吸収するよ。
ペットボトルが空になったので、満タンになるまで水を入れてベンジャミンのところへ行く。相変わらず黄色い葉が目立つ。枝を揺するとやはりバラバラ葉が落ちてしまう。ダメなの?もう枯れる一方なの?
枯れないで、ベンジャミン。もっとみずみずしいあなたでいて。そう思いながらペットボトルの水をやる。土が水を吸い込む。水を汲みに行く。戻ってきてまた水をやる。また吸い込む。それを3回繰り返した。
その日は昼過ぎまで仕事をして、翌日から札幌に出かけた。日月火と休んで水曜日、久しぶりの出勤。
ベンジャミンの様子が気になる。いそいそと観葉植物のある部屋に向かう。あれからどうなったかな。ますます枯れていたりして。そうなっていたらまた枝を揺すって葉を落とし、掃除をしなければならない。
あ……!
枝の先に、小さな小さな黄緑色の葉が見えた。え?新しい葉が生えたの?あ、ここにもある、あそこにもある!
ベンジャミンは生き返った。たくさんの水を得て、新たな息吹をもたらした。おお、よく見るとベンジャミンが笑っているように見える。それを見て思わず私も笑顔になる。
この、自然と楽しんで行った行為が後の役に立とうとは。人でも植物でも同じ。誰かの役に立つことは人生最大の喜びだ。
せっかくキレイな花を咲かせる力があるのに水が足りないせいで枯れそうな植物があるなら、私にできることはただひとつ。その植物を見守り、水をやること。
新たなプロジェクトが動き出すその瞬間。今思えば私は、そのタイミングで人から声をかけてもらうことが多い気がする。
ありがたいことだ。私に求められること。それはただただ楽しんで、人の輪の中にいることなのかもしれない。