促されるままに握手をするが、仕事の時と違って、どことなく
ぎこちなさが抜けない。
「あの、自由に、って言われてましたけど、ここは何なんで
しょうか。」
「あー、タバコを吸わない方は、ほとんどご存知ないようです。
と言っても、タバコを吸う方も、一度いらしても禁煙と分かると、
二度目は無いですね。」
「はぁ。」
「ほら、階段の上り下りがあるでしょう。自分で動くことが億劫
みたいです。田中さんは、よくいらっしゃいましたね。どなたか
からお聞きになりましたか。」
「いえ、なんとなく。小さい子を連れた女性とエレベーターの
ところですれ違うことがあったので。あの、それで。」
自分は答えているけど、藍田さんは答えていない。
藍田さんは立ち上がると、伸びをしながら振り返った。
「田中さんも、どうぞご自由にいらしてください。あの親子は
たぶん、しばらく来ないでしょうから。なんでかな、お客さんが
重なることがないんですよ。」
続く