開くドアの陰になっていたが、左側にはベンチがあった。
声をかけてきた男性は、ベンチに座っている。ベンチの上の屋根で
日陰になっているが、どうやら、ビルでたまに見かける男性のようだ。
「ちょっと驚かれたようですね。どうぞご自由に。でも、禁煙です。」
「あー、タバコ吸いませんから。」
やっと口から出たのは、これだけ。思わぬ景色を見た衝撃から、まだ
立ち直れていない。いったいここは、なんなんだ。こんなふうになって
るなら、もっと早く、誰か教えてくれればいいのに。どうして誰もここの
ことを話さないんだ。疑問ばかりが浮かび、そして知らずにいた悔しさを
味わっていた。
「せっかくですから、どうぞ。」
再度、男性に促され、おずおずとベンチへ進んだ。
近づくと、やはり、見かけたことのある男性だった。
「下の階にいる田中です。」
挨拶をして、男性の隣に腰をおろした。
「田中さん、5階のメーカーさんで勤務されているんですね。たまに
お見掛けしますよ。私は、ここの管理人をしている藍田といいます。
どうぞよろしく。」
そう言って男性は手を差し出してくる。
続く