「壱与…」
巴御前が目を覚ました。
「お母さん…」
壱与が巴御前をそう呼んだ。
「淋しい想いをさせてしまいましたね…」
巴御前は身体を起こした。
「大丈夫…」
壱与の手が肩に触れる。
巴御前はその手を握った。
「どうして、今まで…」
壱与が知りたいこと…
それはたった一つであった。
「あの時、三諸山で身体に光が入りました…」
「とても大きな光…」
「私には荷が重すぎました…」
「そこからは何も覚えていません…」
巴御前が壱与にそう話した。
「このお屋敷の前で気を失っていたそうです…」
「私はあの方に拾われました…」
「何も思い出せない私を…」
「あのお方の寵愛を受けて、今まで生きられたのです…」
巴御前は壱与の手を頬につけた。
「こんなに…大きくなって…」
「あの壱与が…」
巴御前の瞳から涙が溢れた。
「ありがとう壱与…」
「私は全てを思い出しました…」
二人の波動が触れ合っている。
失われた時間を取り戻そうとしていた。
前鬼と後鬼が海を見ている。
「ここまで来れば、目と鼻の先…」
目の前にうっすらと島が見えている。
「しかし、紅牙の奴どうするつもりじゃ…」
後鬼が、紅牙のことを気にしている。
「奴が水嫌いとは知らなかった…」
「どんな奴にも弱みはあるものじゃのう…」
前鬼がそう言って笑っている。
「まだ、新月までには時間がある…」
「そのうちに真魚殿も来ることじゃろう…」
「しかし…」
漂う波動に後鬼が一抹の不安を感じる。
「起こすのは容易い…」
「問題はそれをどう防ぐかじゃ…」
後鬼が考え込んでいる。
「真魚殿の策でも不安はある…」
「しかし、他にも考えがあるかもしれぬ…」
前鬼が後鬼に言った。
「一度、決潰した川を止める事は出来ぬ…」
「地の龍の力…」
「開放されればどうなるか…」
後鬼が未来の一つを創造している。
「そのために我らが来たのじゃろう…」
「小角様の想いを携えて…」
不気味なほど静かな海。
前鬼はその海を見ながら、もう一つの未来を創造していた。
次回へ続く…
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