綾人が邑の入り口まで迎えに来ていた。
「何だか緊張するなぁ…」
浅葱は見かけによらず、繊細な一面があるようだ。
「大丈夫ですよ…」
そんな浅葱を見て綾人が言う。
庶民が貴族の屋敷に招待される。
ごく稀なことであるだろう。
「おい、綾人!」
「本当に、美味いものがあるのか…」
「それは、ご用意しております…」
嵐の願いはどうやら叶いそうである。
「どうした壱与…」
真魚が壱与に声を掛けた。
「なんだか…どきどきする…」
壱与が胸を押さえている。
「ほう…」
真魚はその姿に笑みを浮かべた。
惹きあう心…
それには必ず理由がある。
高い波動は結び付く。
その理は誰にも変えられない。
前鬼と後鬼は、先に目的の場所に向かていた。
始まりの島…
古事記では伊弉諾(いざなぎ)と伊弉冉(いざなみ)が、
矛で海をかき回し出来た島である。
「うちらが先に行って、どうにかなるものか?」
後鬼が前鬼に問いかける。
「真魚殿も、紅牙も策にかけては右に出る者はおらぬ…」
二人が練った策なら間違いない。
前鬼はそう考えている。
「確かにそうじゃ…」
「そういう所は小角様に似ておるな…」
後鬼が、小角との思い出に触れる。
「もうあれは小角様の経塚ではない…」
「いつ、何が起きても不思議ではない…」
前鬼が後鬼に言う。
「しかし、真魚殿の見立てじゃと、新月と言うておった…」
「うちもそんな感じがする…」
「真魚殿には嵐がいる…」
「もしもの時はすぐにでも飛んで来られる…」
後鬼の一抹の不安…
前鬼はそれを拭い去った。
「だが…」
「そのもしを感じ取れるのは儂らだけじゃ…」
前鬼がそう言った。
「それに…」
「小角様の想いを受け継がねならぬ…」
前鬼と後鬼の気持ちが前を向く。
「小角様の残された想い…」
「あれだけはうちらの手で…」
後鬼の想い…
全ての想いが一つになる。
その瞬間に向かっていた。
次回へ続く…
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