「ここも久しぶりじゃのう…」
後鬼がその場所を見渡している。
吉野、金峰山(きんぷせん)寺。
前鬼と後鬼が嘗て暮らした場所である。
「これはまた都合が良い…」
前鬼が笑っている。
「そろそろかと思っていたよ…」
紅牙が目の前に現れた。
「真魚が来るかと思ったが、忙しいようだな…」
「真魚殿は、ある男達を追っておる…」
前鬼が紅牙に事情を説明する。
「うちらはその事を聞きに来たのじゃ…」
「紅牙、お主は知っておったのであろう…」
後鬼が紅牙を睨んでいる。
「あの島で、怪しい男を見た…」
「法華経を護摩壇に焼べておった…」
「恐らく、小角様のものじゃ…」
後鬼の言葉には、怒りさえ感じる。
「その話はここではまずい…」
「老師様が書院で待っているはずだ…」
紅牙は前鬼と後鬼を連れて、書院に向かった。
何もない部屋。
書院と呼ぶにはふさわしくない。
ただの空間…
そんな感じさえする部屋であった。
「久しぶりじゃな、前鬼後鬼…」
「その様子じゃと、退屈はしておらぬようだな…」
老師がそう言って笑っている。
「老師殿…お久しぶりでございます…」
前鬼と後鬼は頭を下げた。
「今回の事はお山も関わりがある…」
「お主らもうすうす感じておるであろう…」
老師が前鬼と後鬼に向き合っている。
紅牙は二人の後ろに座っている。
「老師殿は奴等のことをご存じなのですか?」
前鬼が単刀直入に聞く。
「これは、お山の極意事項じゃ…」
「代々、口伝によってのみ伝えられておる…」
「何ですと…」
老師の言葉に後鬼が唸った。
「どうりで…儂らも知らないわけじゃ…」
前鬼がその言葉に納得している。
「今知っておるのは、儂と紅牙だけじゃ…」
「紅牙とて、少し前に知ったばかり…」
老師がその事実を打ち明ける。
「お主らに出逢ったのは、老師様の言いつけの時だ…」
紅牙も巻き込まれた一人…
そう言う事になる。
「ある男が…」
「護摩壇に法華経を焼べておりました…」
後鬼が島で見た事を老師に告げる。
「なるほど…」
老師がそう言ったきり黙り込んでしまった。
「真魚殿は、闇を扱う者と出逢っております…」
「闇を使うだと…」
前鬼の言葉に紅牙が驚いている。
「奴等は恐らく…裏の者…」
老師がようやく口を開いた。
「裏の者とは…どういう…」
後鬼が老師に説明を求める。
「小角様が拵えた修験…」
「それには裏があったのじゃ…」
「な、なんですと!!」
老師の口から出た言葉…
それに後鬼が驚いている。
「裏とは、どういうことなのです?」
前鬼がそれを知りたがっている。
「全ては表裏一体…」
「表と裏が存在する…」
「我らの修験の道もまた然りなのじゃ…」
老師の言葉に皆が引き込まれた。
「そして…」
「それは小角様の教えなのじゃ…」
老師が信じられない言葉を発した。
「小角様の教え…ですと…」
後鬼は開いた口が塞がらぬまま、その意味を考えていた。
次回へ続く…
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