「あれは…」
綾人が浅葱の籠を見つけた。
「浅葱…」
「私がもっと…」
綾人は、浅葱の籠を持って目を伏せた。
「綾人様!」
その声で振り向いた。
そこに壱与が立っていた。
「嵐、どこに行ったの?」
嵐の波動が壱与に知らせた。
「それは…浅葱の…」
壱与は、綾人が持っている籠を見た。
「浅葱が…」
「何者かにさらわれた…」
綾人が、声を絞り出した。
「浅葱が!」
壱与が嵐の波動を追っている。
真魚の言うとおりの事が起きた。
それを知っている壱与は冷静である。
「真魚と嵐が追って行ったのね…」
壱与が綾人に確認を入れる。
「はい、嵐様が神の獣になって…」
「それなら、もう心配は無いわ…」
壱与の真魚と嵐に対する信頼は絶対である。
「綾人様、一緒に来て…」
「浅葱の家に行きましょう…」
壱与はそう言って歩き始めた。
綾人は浅葱の籠を持って、
壱与の後をとぼとぼと付いて行った。
浅葱の家は邑の外れにあった。
「おじさんいる?」
壱与は入り口の前で声を掛けた。
「どうした…」
すぐに鹿牟呂が顔を出した。
「浅葱がさらわれたの…」
壱与が鹿牟呂にだけ聞こえる様に言った。
「なんだって!!」
「浅葱が!」
鹿牟呂はこの時、自分が犯した過ちに気付いた。
「大丈夫、真魚と嵐が今向かっている…」
壱与は鹿牟呂にそれを伝えた。
「私がもう少し…しっかりしていれば…」
綾人が、浅葱の籠を持ってうつむいている。
助けるどころか先に気を失った。
綾人にも男としての自尊心はある。
「真魚と嵐なら大丈夫…」
「必ず浅葱を助けてくれる…」
壱与が綾人を慰める。
「それよりも、おじさん…」
壱与はそう言って、鹿牟呂を見た。
「わかっている…」
「娘の命には代えられん…」
鹿牟呂がそう言ったきり、口を閉ざした。
次回へ続く…
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