「綾人、もう帰るの?」
浅葱は綾人に声を掛けた。
しかし、綾人は気付かない。
夢遊病者の様に歩いている。
「おい!綾人!」
浅葱が大きな身体で綾人の前に出た。
「わっ!」
それでようやく綾人が気付いた。
「どうした…何かあったの?」
来た時とはずいぶんと違う。
綾人の様子を、浅葱が気にしている。
「いや、別に…」
そう言われても浅葱は納得出来ない。
「ひょっとして…壱与のこと…?」
壱与の所へ行く…
そう言って浅葱の前からいなくなった。
そして…
帰って来ればこの有様である。
「いや、そう言うわけではないんだ…」
「ただ…」
そこまで言いかけて、綾人の口が止まった。
「ただ、どうしたのよ!」
「早く言いなさいよ!」
浅葱は、綾人の背中を手で叩いた。
どん!
「痛っ!」
綾人が背中を押さえている。
「浅葱って力あるなぁ…」
ようやく綾人が笑みを浮かべた。
「だから、何なのよ?」
浅葱は綾人にせっつく。
「壱与様って何考えているんだろう…」
「そう思って…」
ぷっ!
わははははははっ~
綾人の一言で、浅葱が腹を抱えている。
「そ、そんなにおかしいですか?」
綾人は戸惑っている。
「壱与はね、特別なの!」
「そんな事気にしてたら、付き合ってられないよ!」
浅葱が壱与の友達である訳…
綾人はそれが分かった気がした。
「壱与様は…特別…」
「壱与様は…私とは違う…」
綾人は、浅葱の言葉に囚われた。
「あれはあれで苦労しているのよ…」
「誰にも言わないけれど…」
「だって、言ったって誰も理解できない…」
「わからないもの…」
「でも、私は少し安心した…」
「佐伯様や嵐がいた…」
「それだけでも、壱与には救いだと思うの…」
綾人は、浅葱の言葉に飲みこまれた。
「浅葱って…壱与様のことわかっているんだ…」
綾人はそう言った。
「あんた、話聞いてた?」
「だから、分からないって…」
「でも、壱与は壱与…」
「全部壱与なの…」
綾人は、浅葱の言葉に感動していた。
「全部…壱与様…」
壱与の全てを受け入れる浅葱の心。
その美しさと広さに、綾人は気付いた。
「私は壱与が大好き…」
「ただそれだけなの…」
綾人の言いたいこと…
それを浅葱はあっさりと言う。
しかし…
この時、綾人は感じた。
浅葱の気持ちには…適わない…
理由もなく、そう思っている自分がいた。
「浅葱ってすごいんだね…」
綾人は浅葱に向かって言った。
「私?私のどこがすごいの?」
「お偉い方の頭はどうにかなってるのね…」
浅葱はそう言って笑っていた。
「ありがとう、浅葱…」
「少し、元気になったよ…」
綾人が笑みを浮かべた。
「だったら胸張って帰りなさい!」
浅葱は綾人の背中を叩いた。
「どうせ、明日も来るんでしょ!」
浅葱はそう言って綾人を見送った。
次回へ続く…
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