「紅牙は老師殿に報告すると、言っておった…」
「紅牙の足ならもうお山についておる頃じゃろ…」
後鬼がそう言って、吉野の金峰山の方を見る。
「来てすぐで悪いが…」
「お主らには、すぐにお山に向かって貰いたい…」
真魚が前鬼と後鬼に言った。
「あの様子だと、紅牙は何かを隠しておる…」
「その理由…」
「うちも知りたいと思うております…」
後鬼が前鬼と目を合わせる。
「今から言う事を紅牙に確認して欲しい…」
真魚はそう言って、二人に耳打ちした。
「なるほど…」
前鬼が蓄えた髭を撫でる。
「さすがは真魚殿…」
後鬼が感心している。
「俺はここで奴等を探す…」
「奴らには、聞かねばならぬ事がある…」
真魚は何かを掴んでいるようである。
「奴等の居場所…」
「知っておるのですな…」
真魚は見当はつけている。
後鬼はそう考えていた。
「この邑(むら)にいれば、そのうちに現れる…」
「もう来ているかも知れぬぞ…」
真魚が稲刈りをしている浅葱に目をやった。
「ほう…」
「噂をすれば…」
浅葱と話す綾人…
離れた木の陰に怪しい人影…
「あれが、真魚殿が見た…」
後鬼がその波動を感じている。
「確かに…よく似ておる…」
「だが、奴に比べたら…あの男は子供…」
前鬼が感じた危険な香り…
真魚にその事実を伝える。
「その男が…頭か…」
小角が築いた葛城二十八宿。
それを逆に利用する。
それには強大な霊力が必要である。
しかも…
闇を操る…
その術を知っている者達の、頭かも知れない。
「面白い…」
真魚の口元に、自然と笑みがこぼれていた。
何もない整理された部屋…
そこで、紅牙が一人の老人と向き合っていた。
齢70歳ほど…
頭に毛がなく、口元から胸まで白い髭が伸びている。
その老人は、皆から老師と呼ばれていた。
「老師様の言うとおりでございました…」
「なるほど…そうか…」
「それで、奴には出逢ったのか?」
老師が紅牙に聞いた。
「奴とは、どちらでございましょう?」
紅牙が態とはぐらかす。
「真魚に決まっておるであろう…」
老師がその答えを待っている。
「真魚にはまだ…」
「しかし、前鬼と後鬼が来ておりました…」
紅牙が老師に伝えた。
「そうか…」
「だが、いずれ真魚には話す事になるじゃろう…」
老師は少し考え込んだ。
「だが、奴のこと…」
「既に何かを気付いておるかも知れぬ…」
老師の口元に笑みが浮かぶ。
「老師様…」
「お山の一大事に…なにやらうれしそうですな…」
紅牙が老師を見て笑っている。
「それは、お主も同じではないのか?」
逆に老師に咎められる。
「あの男…どうなっておるのか…」
「それは私も楽しみにしております…」
紅牙が笑みを浮かべる。
「あれから、どれくらい力を付けたのか……」
老師が、真魚の子供時代を思い返している。
「しかし…じゃ…」
「これは儂らで何とかせねばなならぬ…」
老師が紅牙に言った。
「ごもっともでございます…」
紅牙が老師と目を合わす。
「どんな手を使ってでも…」
老師はそう言って紅牙を見た。
次回へ続く…
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