「そういうことか…」
真魚が笑みを浮かべてそう言った。
気がつくと…
拳大の黒い塊が大きくなっている。
それは揺らぎなら…
あっという間に、人の大きさぐらいになった。
「あいつは馬鹿か…」
「あれを誰がどうやって始末するのだ!」
嵐がうれしそうに言った。
「闇を操る男か…」
真魚の目は真剣だが、口元は笑っている。
「どうやら、奴と出会った場所が悪かった様だな…」
真魚がそう言って、山の民の男の前に出た。
「お主は誰だ!」
男は、突然現れた真魚に驚いた。
「俺は佐伯真魚だ…」
「佐伯だと…」
「お主の様なものが、どうしてこんな所にいる…」
下級の貴族でも、こんな所には絶対に来ない。
しかも、たった一人で…
男が驚くのも無理はない。
「俺のことはいい、あれに気を付けろ!」
「あれに触れると、生命でなくなる…」
真魚が男にそう言った。
生命でなくなる…
男はその時初めて、手足の震えに気がついた。
意識ではなく、先に身体が震えた。
目の前にあるもの…
それが何であるか、身体は知っていた。
それは、恐怖そのもの…
触れたらどうなるか…
それを知っている。
だが、勝手に身体が引きよせられる。
行ってみたい…
触れてみたい…
それを味わってみたい…
恐怖という甘露…
それが今、目の前にある。
「しっかりしろ!敵は己だ!」
「あっ!」
真魚の言葉で、男は目が覚めた。
「お主は、あの男の相手を頼む…」
真魚は目で合図をした。
それは、敵ではない…
真魚の意志の表れでもある。
その間にも、闇はどんどん大きくなっていく。
「嵐!」
真魚が叫ぶのと同時であった。
霊気で大気が押され、突風が巻き起こる。
その中心には、金と銀に耀く美しき獣…
真の姿の嵐があった。
「やっと飯にありつける!」
嵐がそう言うと同時に、姿が消えた。
消えたのではない…
人の目では、嵐の速さについて行けないだけだ。
そして…
闇の形が変わっていく。
嵐が闇を食べている。
「なんということだ…」
山の民の男は、口を開けたままである。
真魚は右手で棒を構え、左手で手刀印を組んでいる。
「どれだけ食べれば気が済む…」
真魚が、嵐の食いっぷりに呆れている。
だが…
決して闇から目を離さない。
その大きさを見ている。
大きさが変わらなくなれば、嵐の食事の終了である。
「青龍!!!」
真魚が叫ぶと、漆黒の棒が碧く耀いた。
その光が宇珠を巻きながら天に向かう。
そして…
碧い耀きの龍の姿に変わった。
「征け!!!」
真魚が叫ぶと、顎を広げ碧い炎を吐いた。
そのまま闇の中に、牙を食い込ませる。
闇が碧い炎で焼かれていく。
青龍の身体が碧く耀く。
身体が宇珠を巻くように動く。
そして…
少しずつ…
黒が灰色へと変わって行く。
ぎゃいぃぃん!
青い龍が顔を上げると、闇は灰となって崩れ去った。
「戻れ、青龍!」
真魚声で、漆黒の棒が一際輝いた。
その中に碧い光が戻って行った。
次回へ続く…
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