「嵐!」
真魚の叫びと同時に、その身体が耀いた。
突風が吹いた。
解放された霊力に、大気が押された。
昴達は咄嗟に、着物で目を庇った。
足を踏ん張り、風に耐えた。
目を開けると、そこに…
金と銀に耀く、美しい獣が立っていた。

「ようやく…飯か…」
嵐がそう言うと、姿が消えた。
昴の目には、速すぎて見えなかった。
真魚が手刀印で空を斬り、棒を構えた。
「玄武!」
棒が白く耀き、光が膜のように広がった。
その光が宙に舞い、昴達を覆った。
光の膜は半球状になり、昴達を包み込んでいた。
「そこから一歩も出るな!」
真魚はそう言い残すと、前に走った。
「逃げろ!」
前にいる、義沙に向かって言った。
義沙の後ろから、黒い触手が伸びてきた。
真魚の棒が、灼熱の赤に変わる。
灼熱の棒が、黒い触手を切り裂く。
光が奔り、切り裂いた触手が消えた。
それは、美しき獣の仕業だ。
「なんだ!」
義沙は、その光に目が眩んだ。
既に、火吟の姿はない。
必死に逃げながら、安全な場を探していた。
「昴達か…」
ふと、前を見ると、光の盾が見えた。
義沙は無意識に、昴達の後ろに回った。
「何だ…あれは…」
距離をとって、初めて見えた。
蠢く巨大な黒塊。
それが揺れている。
不自然に、世界が揺れている。
そして、義沙は気付く。
世界が揺れている理由を…
世界では無い…
自らの身体の変化。
がくがくと震えているのは、自分であった。
しかも、震えているのは身体だけでは無い。
心も震えていた。
黒き低い波動。
真の恐怖という甘露。
それを感じ、心が震え、揺れていた。
見てみたい…
食べてみたい…
触れてみたい…
その香りに埋もれたい…
抱かれ、溶け合いたい…
だが、そうすればどうなるかも分かっている。
しかし、湧き上がる感情に、抗えない。
感覚の全てが求めている。
一歩、二歩…
義沙は、闇に向かって歩き始めた。
「駄目!」
その声が、三歩目をとめた。
「昴…」
昴の手が、光の中から義沙の腕を掴んでいた。
そして、その中に義沙を引き入れようとした。
「どうして…」
だが、義沙の身体は、光に弾かれた。
突然、別の耀く手が伸びてきた。
義沙の腕を、その手が掴んだ。
二つの想いが、義沙を光の中に引き入れた。
「妙な真似をすると、私が許さない…」
舞衣の手が、義沙の腕を掴んでいた。
昴と舞衣の想い…
そして、古の力…
光の盾が、それを受け入れたようだ。
「どうして…俺を…」
「俺は…裏切ったのだぞ…」
義沙が、昴を呆然と見ていた。
「話は後、今は生き残ること…」
昴は、義沙に言った。
「奴は…誰だ…」
義沙は真魚を見ていた。
驚きと共に、湧き上がるものがあった。
あのようなものと互角に戦える。
「だが…奴は…」
そんな者など存在するはずが無い。
その事実を受け入れることを…
義沙の心は拒んでいた。
「奴は…」
「奴は…神なのか…」
義沙は真魚の姿を見て、心が震えていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-