「姉上!」
眠っていた女が、急に起き上がった。
「薺様、戻られましたか」
側にいた付き人の少女に、笑顔が浮かんだ。

「姉上が…」
薺はそう言って考え込んだ。
「今、桔梗様は…お休みでは…」
「そうではない…」
少女の言葉を、薺が遮った。
「薺様…」
少女は驚いた。
薺の瞳から涙が溢れ出した。
だが、少女にはその涙の意味がわからない。
心配そうに薺の肩に手を添える。
薺は、両の手で顔を覆って泣き始めた。
「よかった…」
「本当に…よかった…」
薺の涙は止まらなかった。
「できるなら…」
「私も明慧に逢いたい…」
薺はそう言って泣いていた。
我が子のように思い、時を重ねた。
今まで…何度となく側まで行った。
だが、最後の坂は登らなかった。
その向こうに愛しい者がいる。
その波動は感じていた。
だが、桔梗の想いがそれを止めた。
「姉上…」
薺の中を、通り抜けたものがあった。
薺はそれをしっかりと受け止めた。
屋根に耳を当てていた前鬼が、その波動を感じ取った。
「おや…?」
それは、弾けるように急に膨れあがった。
「薺…だと…」
前鬼が何かに驚いている。
「この女は薺…」
前鬼がつぶやいた。
「すると…あれは、桔梗か…」
後鬼が笑みを浮かべた。
「向こうで何か起きたか…」
その繋がりを、後鬼は感じていた。
山に消えた光。
その正体を突き止めた。
「一つの身体に、御霊が二つか…」
前鬼が、その事実に気付いた。
「同時に表には出れぬ…か」
「やはり…やりおったな…」
後鬼が笑っている。
二人の考えは間違っていなかった。
「あれをか…」
前鬼の知識の灯。
その中に、それは存在する。
「だが、未熟な者が扱えるものではない…」
後鬼がそう言った。
「確かに…理を曲げるのだからのう…」
前鬼が、顎に手を当てて考えている。
「未熟ゆえに…招いてしまった結果…」
「…ということなのか…」
前鬼は、薺の霊力をそう見ていた。
「一夜を明かすまでもない…」
「間違いないじゃろ…」
後鬼はすでに、全てをその手に掴んでいた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-