急な上り坂を、明慧はすんなりと登っていく。
所々に置かれている石仏が、それを見守っている。
石仏から放たれている波動。
そこから行基の心が感じられる。

「私は、佐伯様に出会えて、何だかわくわくしています」
「だけど、不思議と理由はないのです」
明慧は歩きながら言った。
真魚はそれを後ろで聞いている。
「それは、お主の意思では無い、魂の意思だ…」
真魚が言った。
「魂の意思…」
明慧は、その言葉の意味を考えた。
「理由も無くそう思うときは、間違っていない…」
「だが、逆の場合もある…」
明慧は真魚の言葉を考えている。
「わくわくしない…時は間違っていると言う事ですか?」
明慧はそう導き出した。
「その可能性が高い…」
「生命は耀くためにある…」
「沈む心は耀きを曇らせる…」
真魚の言葉に、明慧が立ち止まった。
「私は、修行に疑問を抱いておりました…」
「こんな事をして、本当に神に近づけるのかと…」
「お主の足下にも神がいるぞ…」
嵐がそう言って明慧をからかった。
「嵐様は特別でございます…」
「私もこの目でそのお姿を拝見できたら…」
「そう思っております…」
明慧は嵐の姿を見たいと思っていた。
真魚がそれを聞いて笑っている。
「見て感じる事が近道ではある…」
「お主の目は見えぬが、人よりも感度は高い…」
「それが光を見たことに驚きは無い」
「お主に対してだけを見れば間違っていたのかも知れぬな…」
真魚は、明慧の不安にそう答えた。
人それぞれに形がある。
真実を求めることの過程は無限にある。
真魚はそう言っているのだ。
「心を閉ざした者に光は届かぬ…」
「それは自らがそうしてるからだ…」
「お主の感覚と開いた心が、光を見せたのだ…」
真魚は明慧に事実を告げた。
「そういうことでしたか…」
明慧は、全ての出来事を整理していく。
あれほど修行しても手に入れられなかった。
それが、あっさりと…
その事実は明慧にとって驚きであった。
「器に水が溜まるまでは、外からは何も変わらない…」
「そう見えるはずだ…」
「だが、水を注ぎ続ければ、必ず水が溢れる…」
「それは一瞬で起こる…」
「今日がその時であっただけだ…」
真魚が笑みを浮かべていた。
「確かにそのように感じます…」
「今までが無ければ、今もないような…」
明慧はその言葉に、捜していた答えを見つけていた。
しばらく歩くと、森が切れ明るくなった。
「ここでございます」
緑に囲まれた中に、その伽藍があった。
「これを、行基殿が…」
真魚はその配置を見ていた。
山の斜面に描かれた世界。
吉野の金峰山にはない趣があった。
ふと見ると石畳の中央に人が立っていた。
「あれが、慧鎮殿か…」
真魚は目が見えぬ明慧に尋ねた。
「そうでございます」
明慧ははっきりと答えた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-