「どうかしたの?何かあったの?」
未羽が直人の様子に気がついた。
「来る途中…清野様にあったのだが…」
そこまで言いかけて、直人の口が止まった。
まだ、直人の中で整理が出来ていないようだ。

「様子がおかしかった…」
未羽は直人の話の続きを言った。
「どうして…わかる…」
「あなたの顔を見ればわかる…」
直人の驚いた顔。
未羽はその顔が好きだった。
疑わない真っ直ぐな心。
直人のいる貴族の世界。
そこでは、生きにくいだろうと思っていた。
だが、今はそれが、直人の鷹匠としての力を伸ばしていた。
「昨日の事と…関係があるかも知れない…」
命あるものが静まった、あの時だ。
「岩戸の封印が破られたようだ…」
直人がその事実を未羽に伝えた。
「封印…?」
未羽には何か分からなかった。
「そこから何かが出て来て…」
「周りの木がみんな枯れていた…」
「本当!?木が枯れて…」
その出来事の意味を、未羽は考えていた。
未羽の記憶の中には、そんな出来事は無い。
「木の生命が奪われた…」
「それで…危険を感じ…他の生命が怯えた…」
生命が張り巡らした網。
それに恐ろしいものが触れた。
未羽が自ら感じたもの。
その感覚がそう伝えていた。
「それで、佐伯様が封をしたようだ…」
直人は、美紗から聞いた事実を未羽に告げた。
「佐伯様が…」
未羽は驚きはしなかった。
しかし、神の犬を連れているとは言え、
事実は未羽の想像を超えていた。
「木を枯らしたものを、見たのかも…」
未羽の心象が、そう言っている。
「そうよ!それを見たのよ…清野様は…」
生命の全てが畏れるもの。
それを、見て、感じる事は、全て自らに刻まれる事実だ。
どんなに不可解な出来事でも、それは変わらない。
「それでか…」
直人に何かが見えた。
「とげとげしたものが、無くなったんだ…」
清野の変化を、直人はそう受け取った。
「なるほどな…そうか…」
直人は一人で納得していた。
「何が?どうなの?」
未羽が、直人の出した答えを知りたがった。
「清野様が、恐ろしい目に遭ったのかも知れぬと…」
「良く、死に目に会うと、人が変わると言う…」
直人の答えは強ち間違えてはいない。
だが、事実は少し違う。
清野は死に目には会っていない。
それを見ただけだ。
「呉羽でさえ、あれだけ怯えたのよ…」
「近くで見れば、相当恐ろしいものよ…」
生物界の頂点に立つ鷹は、上を見ることは無い。
自らの上には、強いものがいないからだ。
上から襲われることが無いものは、上を見ない。
貴族は、鷹に憧れていたに違いない。
鷹になろうとして、成れなかったのが貴族だ。
だが、未羽はその先を見ていた。
「それを、佐伯様が退治したのよ…」
「私達は出会うべくして、出会ったのかもしれない…」
未羽は直人を見ていた。
「俺と…未羽か…」
直人が真っ直ぐな目で未羽を見た。
「違うわよ…」
未羽が笑った。
「佐伯様よ…」
未羽が直人を見た。
「なんだ…」
直人は恥ずかしそうにうつむいていた。
自らの心の内を、それとなく言ってしまったからだ。
だが、未羽はうれしかった。
直人の真っ直ぐな心。
それが、未来へ繋ぐ鍵だと信じて疑わなかった。
そして、未羽はその心に救われていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-